(8)子どもたち 島での教育知恵絞る大人

2015/09/21 09:44

毎朝一緒に登校する沼島小の子どもたち。少ないけれど、掛け替えのない仲間だ=南あわじ市沼島(撮影・小林良多)

 島でただ一つの沼島(ぬしま)小学校。8月、夏休み中にもかかわらず、激しい和太鼓のリズムが聞こえてきた。

 「やー」。子どもたちの掛け声。「あかん、全然元気ない」。男性教諭の声。必死でばちを振り上げ、太鼓の回りを跳びはねる。
 この春、家族で移住してきた1年の堺虹翔(ななと)君(7)が小太鼓のリズムに詰まった。「しっかりやれよー」。女性教諭のげきが飛ぶ。固まる虹翔君に6年の岡島匠秀(たくみ)君(12)が目で合図。打ち方をそっと教えていた。
 15年ほど前から取り組む「沼島子ども太鼓」は、9月の地区合同体育祭で披露。1年から6年までの児童全11人が出演する。
 「少し前までは上級生だけでやっていたんですが」と藤井宏茂校長。児童数は10年間で4分の1に減った。来年度は1桁に突入する見込みだ。

 夏休み最後の8月31日、沼島総合センター。沼島中3年の安達龍一君(15)と寺岡優作君(15)が、テレビ画面を真剣に見つめる。
 「mustの次に当てはまるのは」
 画面の女性講師が尋ねる。「『be』と思うけど」。龍一君が答えをいち早くキーボードで打ち込んだ。
 テレビは、島根県の離島・海士町(あまちょう)にある公営塾「隠岐國(おきのくに)学習センター」と、インターネット中継でつながっている。隠岐の中学生と同じ授業を同時に、沼島の子どもが受ける。質問などやりとりもできる。
 遠隔授業は昨年11月に始まった。英語と数学を1時間半ずつ、週1回で授業料は月2千円。10月から週2回に増える。塾のない沼島の生徒にとって、貴重な学びの場だ。
 「島の子の不利な部分を埋め、刺激を与えたい」と、海士町の塾の副長大辻雄介さん(40)は話す。島の高校は存続の危機にあったという。
 5年前に始まったこの塾では元予備校講師らが授業を行い、運営は行政が支える。島の高校を選ぶ生徒が増えた上、大学の進学実績も伸び、全国から注目されている。
 学校の統廃合や進学は離島共通の問題だ。沼島中も4年前、淡路島内の中学校と統合することがいったんは決まっていた。
 地域の強い反対で止まっているものの、保護者の思いはさまざま。ある親は「部活動を選ばせてやりたい」と言う。沼島中は生徒数9人。1、2年は陸上部しかない。
 島の子どもたちを島でどう育てるか。大人たちは知恵を絞る。

 7月下旬。住み込み取材の下見で、地区の夏祭りをのぞいた。
 午後7時。役員が集まった。でも始まらない。「子どもらはまだかいな」。幼児3人が姿を見せた。「こら、遅刻したらあかんねんど」「お菓子食べんか」。あちこちから声がかかった。
 それから1カ月。島の教育について多くの意見を聞いた。でもこの時の一言が最も強く印象に残っている。
 「やっぱり子どもの声が聞こえるのが一番じゃ」
(岡西篤志)

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