(8)ジレンマ 夜間見守り制度合わず
2015/10/27 10:34
高齢者と談笑する北本達也さん(右から2人目)。的確な対応ぶりに信頼も厚い=高砂市荒井町小松原1(撮影・後藤亮平)
とにかくよく名前を聞く。
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高齢者が共同生活を送る「グループリビングてのひら」(高砂市)。66~96歳の住人は何かに困ると、決まってこの人に相談する。
てのひらを運営するNPO法人の職員北本達也さん(46)。デイサービスの生活相談員として、日中は常駐している。
「携帯に変なメールがきた」「雨漏りや」。そのたび、丁寧に応じている。
朝夕、北本さんらは、てのひら以外の場所から通ってくるデイ利用者の送迎に奔走する。1人乗せて来たと思えば、すぐ別の1人を迎えに行く。まとめて送迎することができず、効率が悪い。
これは、人によってデイを利用できる時間が少しずつ違うためという。介護保険事業は、分単位の運用が求められている。
「制度ってこんなんですよ。融通が利かない」
特別養護老人ホームに勤務し、3年前、てのひらに移った北本さん。元大手企業社員の冷静さを保ちつつ、「福祉の現場は振り回されてばかり」とため息をつく。
‡
「晩の間、何かあったら言ってくださいね」
北本さんは、住人のまとめ役である秋田華子さん(74)=仮名=に念を押す。
毎日夜7時ごろ、てのひらを出る。住人だけの時間に、何かあってもおかしくない。いつも不安に思いながら、職場を後にする。
「夜の見守りは何らかの形で必要なんです。でも、てのひらでは難しい」
施設から住宅へ。激増する1人暮らしの高齢者に対応するため、国はかじを切った。補助金などを背景に、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や有料老人ホームが続々と誕生しているが、いずれも課題は「夜の見守り」という。
もともと担い手の確保が難しい上、高齢者施設で虐待や火災などが相次いだことを受け、国が夜間のヘルパー配置などの基準を厳格化した。
ヘルパーが常駐する部屋の面積、詳細な届け出など、一律に規制。てのひらのような小規模な場所にはそぐわない。
もっと柔軟にできれば…。北本さんの言葉にジレンマがにじむ。「誰のための制度や思います?」
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グループリビングは、住人の支え合いに頼る暮らし方だ。しかし北本さんは、「長く存続するためには、足らずを補う仕組みが必要」と考えている。
例えば、地元の住民や医療、介護の関係者が協力。てのひらを支える、緩やかな「チーム」をつくり、安定した見守りを実現できないか-。
それは、既存の制度に乗らない新たな挑戦だ。「嘆いていても前に進まない」。北本さんは思いを温める。
(宮本万里子)