(2)外出難民 住民協力病院まで送迎
2015/11/29 12:00
病院から自宅まで高齢の女性を送り届ける「アユート」のメンバー=三田市つつじが丘南2(撮影・大森 武)
10月中旬の朝9時、三田市のニュータウンつつじが丘。地域の顔役今井昭夫さん(70)の車に乗せてもらった。
関連ニュース
ナショナルトラスト運動定着へ奨励賞 西宮のNPO
津波訓練ポスターに有村架純さん 兵庫県
「ミニバスケ全関西大会」に丹波の2チーム出場へ
1軒の家の前に止まる。80代の小柄な女性が頭を下げた。
「いつも助かってます」「じゃあ、行きましょか」
行き先は、約10キロ先の市民病院。3年前に始めた高齢者の送迎ボランティア、通称「カーボラ」だ。
去年の秋にくも膜下出血で倒れて… 車の運転もやめて… どこか痛むと「がんかも?」と気弱になって…。
約20分、女性はせきを切ったように語り続けた。同居する夫は認知症が出始めたという。
「ちょっと気をつけてあげないとね」。弱々しい足取りで病院に入る姿を見送り、今井さんがつぶやいた。
‡
5年前。つつじが丘と周辺の各団体でつくるふれあい活動推進協議会が、75歳以上の約千人に「困っていること」をアンケートした。
「通院」、また「通院」。圧倒的に多かった答えだ。農村地帯で、大きな病院までは車か、バスと電車を乗り継いで行くしかない。
「昔はそれでよかった」と協議会長の今井さん。「みんなまだ若くて元気だったしね」
ところが街開きから30年近くたち、住民も老いた。免許は返納し、バス停までの移動すら難しくなる。
話し合いの末、出た結論が「住民が手分けして自家用車で送り迎えする」だった。
年会費と1回数百円の燃料費しか取らない。違法な「白タク」扱いにならないよう、運輸局への確認を重ね、仕組みを練り上げた。
「保険はどうする」「事故があったら」。慎重な意見も出た。
「全ての責任は僕が負います」
最後は、今井さんの一声で決まり。気付けば2年たっていた。
‡
ボランティア団体は、イタリア語で「手助け」を意味する「アユート」と名付けた。登録約60人で、主婦や60~70代が中心。利用は2013年度が822件、本年度は1500件ペースと右肩上がりが続く。
9月中旬の会議。「正直、それはないんじゃない? と思うこともある」。1人の発言を呼び水に、本音が次々飛び出した。
「友人に会ったので送ってもらう」とドタキャンされた。「ちょっとあそこ寄って」と軽く言われた。私も、私も-。
「やっていることの意義を丁寧に説明するしかない。始めたわれわれの責務ですよ」。今井さんが場を収めた。
お金を払って、サービスを受ける。「消費者」として長らく生きてきたニュータウン住民。地域の助け合いとは縁遠かった。
他ならぬアユートの代表もそんな一人だ。元国鉄マンの塩見征義(せいぎ)さん(76)。“変身”の始まりは10年前にさかのぼる。(黒川裕生)