(3)ご近所の力 年重ね結びつき新たに
2015/11/30 10:14
お年寄りが集まる「ふれあい喫茶」。左端が今井昭夫さん=三田市つつじが丘南3(撮影・大森 武)
切れ目なしにかかってくる電話を、柔らかな口調でさばいていく。
関連ニュース
ナショナルトラスト運動定着へ奨励賞 西宮のNPO
津波訓練ポスターに有村架純さん 兵庫県
「ミニバスケ全関西大会」に丹波の2チーム出場へ
三田市のニュータウンつつじが丘(つつじ)近くの市民センター。お年寄りを車で送迎する住民のボランティア団体「アユート」が予約を受け付ける。
「多い日は20件超えますよ」。ファイルを繰るのは、代表の塩見征義(せいぎ)さん(76)だ。
元国鉄マン。仕事一筋の人生だった。
大阪府吹田市から移り住んだのは1991年。決め手は実家がある京都府福知山市にほど近く、大阪まで通勤できること。帰宅は深夜。近所付き合いなど考えもしなかった。
10年前に退職。2人の娘はとうに嫁いでいた。第二の人生は、妻の美春さん(72)とテニスでも。そう考えていた矢先だった。
突然、自治会の女性が数人訪ねてきた。民生委員の打診。「無理です」。そもそも民生委員って何だ?
女性たちは手ごわい。頼みに来ること二度、三度。自治会活動を任せきりだった負い目もあった。腹を決めた。
‡
主な仕事は、高齢者や子どもの見守り。名刺代わりに名札を提げ、恐る恐る「見知らぬ隣人」宅を訪れた。
認知症が出始めた人、週3回の透析が欠かせない人。特に80歳以上の人たちは心配事を抱えていた。
家に上がるのは抵抗があった。「女の人なら、すんなりできるのかな」とも思ったが、自分なりのスタイルで。「お変わりないですか」。玄関先でご機嫌伺いを重ねた。
1年もすると「知らない町」に見知った顔がどんどん増えた。「あ、おっちゃん」。子どもたちも気安く声をかけてくる。
地域の団体でつくるふれあい活動推進協議会長に就き、現会長の今井昭夫さん(70)と知り合った。行動派の今井さんと、器用な面がある塩見さん。意気投合し、つつじを動かす両輪となっていく。
今年からは、庭の草引きなどを手伝う生活支援「ちょいボラ」も始めた。
「少しは役に立てているでしょ」と塩見さん。「まあ僕もそのうち、送迎してもらわなあかんけどね」
‡
つつじを含む藍地区の高齢化率は約24%。市全体の約20%より高く、15年間で倍増した。
街開き当時、縁もゆかりもなかった住民たち。だが、年齢を重ねるにつれ、地域との関係を結び直す。
つつじが丘小学校の空き校舎では7月から、地域住民を対象にふれあい喫茶を開いている。もちろん今井さんや塩見さんもいる。
「お兄ちゃんもどうぞ」。コーヒーやお菓子を何度もいただいた。「つつじ? 静かでいい町よお」。笑い声が絶えない。
それにしても、町で会うのはシニアばかり。若い世代はどう暮らしているのだろう。
(黒川裕生)