(7)商店 生き残り、欠かせぬ存在に
2015/12/04 11:00
小さな商店が並ぶ町の中心部=三田市つつじが丘南3(撮影・大森 武)
ピンポーン。
しばらく客の絶えていた店のドアが開き、チャイムが鳴った。おじいさんが1人、洗剤を買いに来た。「2個で698円ね、ありがとう」。店はまた静かになった。
「ま、見ての通り。暇ですわ」
三田市つつじが丘(つつじ)の薬局、その名も「くすり屋」の井上真一さん(56)が肩をすくめた。
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つつじの中心部。道路の両脇に小さな店が並ぶエリアがある。
生花店、文房具店、美容院など計19店舗。空き地が点在し、人通りもまばら。正直、かなりうら寂しい。
1991年に10店舗が開業してから、10年は忙しかった。どの店も桁外れに繁盛した。
だが市内に大きな商業施設が続々と生まれ、大打撃。人口減も追い打ちをかけた。
そして今。売り上げはどこも最盛期の10分の1ほどだろうか。
「あ、面白いもんがありますよ」。にしら米穀店の西羅治郎さん(49)を交えて3人で雑談していると、井上さんが店の奥から紙の束を持ってきた。
「欧風ショッピング街建設」「3区に44の店舗住宅」「文化ゾーンやホールも」。開業直前の新聞記事の切り抜きだ。
結局、区画は売れ残り、店は予定の半分以下。ばら色の未来は、来なかった。
「でも今あるのは生き残った店。ようやっとる」と西羅さん。自身も20代で新天地に店舗兼住宅を構えた。
「あってよかったと思われる限り、店の存在意義はある」。井上さんがガラス戸越しに町を見た。
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商売人がただ手をこまぬいているわけではない。
町唯一のスーパー「メルカート」は生鮮食品を業者から仕入れるのをやめ、昨年新たに担当者を置いた。大手スーパー出身の鈴(すず)雅昭さん(55)だ。
毎朝5時、店長の藤田孝夫さん(58)や鈴さんら従業員は、神戸市中央卸売市場(同市兵庫区)まで直接買い付けに向かう。魚や野菜の鮮度、値段を自分たちの目で吟味する。
いいものを安く。「最近、生鮮品が充実してきた」と住民にも好評だ。
遠出が難しいお年寄りも増えた。重い荷物が持てない客には、宅配もする。
「一生涯のお付き合い」。開業した四半世紀前のポリシーを、藤田さんは見つめ直す。
伊藤坦(ひろし)さん(63)のパン店「タンアン」は、10年前から長男の心(しん)さん(37)夫妻が手伝うようになった。次の世代につなげたいという思いは人一倍強い。
「ここからの眺めが大好き」。商店が並ぶ通りを一望できる交差点に立ち、坦さんが目を細めた。「ここで生きていくぞ、という気分になるんです」
朝4時半。坦さんは今日もオーブンの前に立つ。
(黒川裕生)