(8)やすらぎ 最期まで、暮らしたい

2015/12/05 10:31

談笑しながら針仕事にいそしむチャチャチャの女性たち=三田市つつじが丘南3(撮影・大森 武)

 三田市つつじが丘(つつじ)に2カ月近く密着した取材。強く印象に残ったのは、日々の暮らしを心から楽しむ人たちの姿だった。 関連ニュース ナショナルトラスト運動定着へ奨励賞 西宮のNPO 津波訓練ポスターに有村架純さん 兵庫県 「ミニバスケ全関西大会」に丹波の2チーム出場へ

 「ちょっと縫いぐるみ背負ってみて」「うわ、いい感じやん」
 つつじが丘小学校の空き校舎に設けられた「つつじ交流ひろば」に、女性たちのにぎやかな声が響いた。
 50~80代の主婦ら23人が参加する「手作りおもちゃの会“チャチャチャ”」。月2回、ここで縫いぐるみなどを作り、市内の子育て団体や高齢者施設などに寄贈している。
 代表の古井康子さん(58)は町の大半が空き地のころからいるので、とにかく友人が多い。あちこちの集まりに顔を出し、じっとしている日がない。
 「すぐ時間が過ぎちゃう」。この秋は長女の宇治原朝子さん(28)が出産で里帰りしたので、なおさらだ。
 3年前には、俳句勉強会もできた。チャチャチャを中心に14人が加わり、「先生」役はメンバーの中島益実さん(75)。春と秋には、自然の中を歩く吟行を開催する。
 一歩外に出ると田園風景が広がるつつじ。一句詠む題材には事欠かない。
 益実さんは夫庸介さん(75)の仕事の関係で、西宮、淡路と移り住み、12年前つつじに腰を据えた。あふれる自然の中にある都会。そんな雰囲気がお気に入りだ。
 東京出身の庸介さんは耕運機を購入し、畑仕事に精を出す日々。益実さんがつつじで生きる心境を、庸介さんに重ねた句がある。
 東京に生まれ 終(つい)の地 蛙(かわず)鳴く
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 多くの人が庭付き一戸建ての夢をかなえた地。歳月が流れ、今度は、最期まで安心して過ごせるかどうか、が試される。
 最近、湯下美津子さん(79)は、不安で眠れない夜がある。
 ローンは完済。3人の息子は独立。孫は5人。庭には咲き乱れるバラ。誰もがうらやむ、穏やかな老後。
 でも、さらに老いが進めば…。いつまでこの暮らしを続けられるんだろう。
 夫の俊宏さん(83)が運転できなくなればたちまち困る。そろそろ送迎を支援する住民のボランティア団体「アユート」に頼ろうか、と考え始めた。
 街開きから27年。つつじは高齢化が進んでいるとはいえ、まだ元気な人たちが多い。ただ、在宅介護を受けたり、認知症を患うケースは確実に増える。アユートでもちょくちょくそうした話題が上るようになってきた。
 「まずは今日が良ければ、いいじゃないか」と俊宏さん。慈しむように、一日一日を重ねていく。
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 10月下旬。「蛙鳴く地」に、子どもたちの明るい笑い声がこだました。つつじの秋祭りが始まった。(黒川裕生)

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