(10)潮流 子育て世帯回帰の動き
2015/12/07 10:07
孫たちが遊ぶのをうれしそうに見つめる河本加津子さん(左から4人目)。にぎやかな夜が来る=三田市つつじが丘北2(撮影・大森 武)
「つつじで子育てしたい」。それはむしろ夫の方の要望だった。
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会社員の堀井勝次さん(40)は、三田市つつじが丘(つつじ)にある妻麻矢さん(40)の実家に来るたび、心をひかれた。のびのびと子どもの散歩ができるなあ-。
2004年、尼崎市内で新婚生活を始めた。06年、勝次さんの転勤に伴い埼玉県内のマンションへ。ビルが並ぶ通りには歩道がなく、ベビーカーを押すのにも苦労した。
09年1月、大阪の本社に戻るタイミングに合わせ、決断。実家から歩いて5分ほどの中古一戸建てに移り住んだ。
子どもは4~10歳の3人。同じ年ごろの子を持つ人たちとは、すぐ仲良くなった。
両親が暮らす実家へは、毎日遊びに行く。「行かないと、末っ子が怒るんで」。麻矢さんが笑った。
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驚いたことに、同じような話をいくつも聞いた。
つまり、つつじを離れた子ども世代が家庭を持ち、戻ってきているのだ。
定員割れが続いていたつつじの幼稚園は、ここ3年ほど入園希望者が10~20人ずつ増え、本年度はついに定員を上回った。
11月中旬、金曜夜。会社員河本勉さん(56)、加津子さん(56)宅は大騒ぎだった。3~7歳の孫3人が泊まりにきたのだ。
「嫁いだ娘や孫に、こんな頻繁に会える日が来るなんて」とほほ笑む加津子さん。
昨年4月、長女和田沙織さん(32)ら家族が、すぐ裏の並びに越してきた。
出産でいったん退職したが、仕事に復帰することを考えると、どうしても親の助けが必要だった。夫の隆太さん(32)は勤務地を大阪から兵庫県内に変えた。
小4から高校卒業までこの町で過ごした沙織さん。「子育てするにはいい環境」と話す。幸い、土地や家の価格も手が届いた。
行政も後押しする。
三田市は本年度、親と近くに住むため市内に家を購入した子育て世帯に、最大30万円の助成を始めた。利用はニュータウンを中心に現在17件で、つつじも1件ある。
小さなはばたきかもしれない。だが、確かな、新たな流れだ。
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老いるニュータウン。取材前はそんなイメージを抱いていた。しかし実際は、今も、これからも人が暮らす場所として、変化を続けていた。
その変化を生み出しているのは住民たちだった。まず、この人がそうだ。
「次はこんなこと考えてるんです」
地域団体の役職を歴任するつつじの「顔役」今井昭夫さん(70)が、新しい計画を教えてくれた。一段と町が元気になりそうだ。
それはまた、別の機会に。(黒川裕生)
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「兵庫で、生きる」第4部は今回で終わります。第5部の舞台は、神戸ビーフのふるさと但馬。掲載は1月初めの予定です。