(2)トアウエスト 誕生30年 脱若者の街へ
2016/03/17 12:25
トアウエストの浮き沈みを見つめてきた切東優さんとオリーブの木=神戸市中央区北長狭通3(撮影・三浦拓也)
街は誘蛾(ゆうが)灯だ。吸い寄せられるように人が集まり、その姿を変えていく。
先鋭的な感性で時代を切り開く商店や建築を特集した1999年の専門誌。自信に満ちた表情の男性が写っている。三宮と元町の間、トアロード西に広がるエリア「トアウエスト」で30年近く店を構える切東(きりひがし)優さん(52)だ。
20~30代の若い世代が裏通りにこぞってファッションや雑貨の店を出し、トアウエストが活気にあふれていた時期。切東さんも神戸を代表する輸入古着、雑貨店「ジャンクショップ」オーナーとして波に乗っていた。
「『若者の街』とか、もういいですわ」
時代は流れ、今年1月下旬。切東さんは少しやつれているように見えた。
「それより僕と同世代にももっと来てほしい」
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大抵の商店街には商店主らでつくる協議会や組合組織がある。ところがトアウエストには束ねる人が存在せず、正確な店舗数やエリアの範囲も分からない。
33年前から輸入雑貨店を営む最古参の男性によると、当時、かいわいに店はほとんどなく、軒先でシイタケを干す家やパン工場があった。
やがて、そんな雑然とした雰囲気を好むこの男性や切東さんのような若きオーナーが集まるようになった。こだわりの店が次々と。80年代、流行作家として鳴らしていた田中康夫さんが紹介したことで、人気に火がついた。
「トアウエスト」と命名されたのもこのころだ。流行に目ざとい若者が押し寄せ、人気店には開店前から行列ができた。
「ファッション都市神戸」ここにあり-。華やかな日々は2000年ごろまで続いた。
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しかし、景気低迷と軌を一にしてトアウエストはじわじわと訴求力を落としていく。
「僕が店を始めた2年前と比べても、人通りが減りましたね」
今年2月末。コーヒースタンドを営む20代の男性が苦笑した。
スポットライトは浴びなくなった。でも、このエリアならではの明かりのともし方はあるはず。「なじみのお客を大切にして、店のファンを増やしたいですね」
トアウエストの“要”切東さんの店の売り上げも、最盛期の5~6割に。「一つの業種では逃げ道がなくなる」とオーガニック系のカフェも始めた。
店の前には大きく枝を張ったオリーブの木。家を買ったときに木を植えるという海外の風習に倣った。
浮き沈みはあっても「神戸の文化を支えている」という切東さんの自負は揺るがない。か細い苗木だったオリーブは、若木の季節を経て堂々たる風格。今日も街を見下ろす。
(黒川裕生)