(3)センター街 仕掛け次々老舗の挑戦
2016/03/19 12:17
三宮センター街の老舗をガイドする藤井淳史さん=神戸市中央区三宮町1(撮影・大森 武)
今年2月、平日の昼下がり。小さな旗に導かれた一行が、神戸の“顔”三宮センター街の入り口に立っていた。
名店を巡る「老舗ガイドツアー」だ。案内役の藤井淳史さん(38)が声を上げる。
「よく見てください。実はセンター街は下り坂になってるんです」
センター街東側のフラワーロードはもともと川。緩やかな勾配は堤防があった名残とか。「ほんまやわ」。客の弾んだ声に藤井さんは笑顔でうなずいた。
テンポ良く明快な語り口。神戸をデートスポットとしてPRするイベントでも中心的役割を担う。本業は100年以上続く老舗の跡取りだが、今や三宮の街づくりに欠かせない若きキーマンだ。
「神戸を盛り上げたい、の一心。昔の自分からは想像できないですけどね」。話は10年ほど前にさかのぼる。
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出身は神戸市灘区。大学院を修了後、大阪で電子部品メーカーに就職した。音響部品の製品設計などやりがいを感じていた。
しかし残業漬けの日々に心が悲鳴を上げる。うつ病。命を絶ちかけたこともあった。
2007年に会社を辞め、妻の実家を手伝い始めた。センター街にある店で、トロフィーや社章バッジなどを販売する。一転した生活の中で、ある取り組みを知った。
センター街などでは、児童養護施設の小学生を毎年沖縄に招待する。一見商売とは関係ない。「これが街衆の力か」。心を揺さぶられた。
10年には、育児する男性を応援し表彰する「こうべイクメン大賞」を開催。当時よく知られていなかった「イクメン」を一気に広げた。
三宮センター街2丁目商店街振興組合の久利計一理事長(68)が言う。
「京都や奈良には歴史がある。でも神戸で生きるわれわれは、物語を紡いでいかんと生き残れない」
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北野オリーブグリーン、水道筋マルシェブルー、旧居留地セピア…。創業1882年のナガサワ文具センターに、神戸の地名を冠した万年筆用インク「Kobe INK物語」が並ぶ。全54色。海外でも大人気という。開発者の竹内直行さん(60)が街の人と意見を交わし、色を創った。「神戸が好きで、文具が好きで、ようやくできた商品です」
傍らに、インク瓶をかたどったピンバッジがある。藤井さんの店とのコラボレーション商品だ。
店舗の激しい入れ替わり、全国チェーン店の台頭は避けられない。それでも、「神戸気質(かたぎ)は変えたくない」と商人たち。派手さはないけど義理堅く、さりげなく個性を出す。
終戦翌年に誕生したセンター街は、今年70歳。どんな神戸気質を見せてくれるだろう。
(岡西篤志)