(1)子育ての話 楽しんでもらえたらいいな

2021/02/27 17:52

「このときのこと覚えてる?」。娘たちに過去の投稿記事を見ながら話す財田さん=明石市

 3月3日、「イイミミ」が開始50年の節目を迎えます。電話やファクスで寄せられた話題や本音を語り口調そのままでお伝えする、いわば紙上の“井戸端会議”で、今でも毎日数十件の投稿をいただく人気コーナー。どんな人が声を届けてくれるのか、訪ねてみました。

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 インターホンを鳴らすと、玄関ドアが開き、前歯の抜けた女の子がひょっこり顔を出した。短い前髪の下の愛くるしい笑顔が、イイミミで読んだイメージ通りで、思わず噴き出した。
 兵庫県明石市の主婦財田(たからだ)正子さん(51)が数日に1回ペースで電話するのは、妹思いの長女(10)と、前歯生え変わり中の次女(7)が繰り広げる日々の出来事だ。
 「東日本大震災直後、長女の授乳中に水質汚染の不安から電話したのを機に、もっぱら子育ての話。最初は勇気が要りましたが、『ああ、財田さん』と言ってくださるようになり安心しました」
 40歳目前に長女を出産。体力的にきつく、母親も正子さんの結婚式直前に他界しており、父親や叔母、義姉らが助けてくれた。それでも当時の記憶は「無我夢中で覚えていない」ほど。
 しかし投稿は、育児のつらさよりも喜びにあふれている。パパと結婚したかった幼い長女が「なぜママがしたの」となじったこと、切迫早産し仮死状態で生まれた次女が誕生日に「ずっと食べられるバイキング券」をねだること、「(次女を)掃除機で吸い込んじゃうぞ」とからかうと、長女が覆いかぶさり「寂しくなる」と大泣きしたこと…。ほほえましい情景が浮かび、どんなにささいな日常も、見立て一つで語るに足るのだと教えてくれる。
 「よく他の人の投稿に励まされるので、同じように楽しんでくれる人がいたらいいなって。イイミミって年齢を重ねるごとに共感が増えてくる。例えば、連れ合いをなくした人の悲しみは、今の父の姿と重なります。『みんなそうなんや』って、人と人のつながりを感じられる場所」
 ブログや会員制交流サイト(SNS)で容易に不特定多数の人とやりとりできる時代だが、「投稿を義務的に感じるようになったら嫌になるかな」と足を踏み入れていない。「のんびりした性格で、ママ友をたくさんつくるのも苦手な内弁慶。アナログが合っている」
 机に並べた投稿記事は、娘たちに注いだ温かなまなざしの記録集だ。
 「心配や迷いは尽きないけど、娘たちを頑張って産んで良かった。こうして投稿を振り返ると、娘たちの思いがけない一言に、私が救われていると気づきます。『イイミミにまた勝手にしゃべった!』って怒られますけど、匿名なんやし、いいやんかあ」
(松本寿美子)

〈財田正子さん 2014年5月27日の投稿〉
◆これほど泣くとは
 幼稚園に通い始めた長女ともうすぐ生後半年になる次女がいます。ちょっかいを出してすぐ泣かすお姉ちゃんですが、先日、掃除機をかけてたとき「○○ちゃん(次女)を吸い込むよ」と冗談で言ったら、覆いかぶさって「吸わないでっ!」「いなくなったら寂しい」って号泣するの。これほど泣くとは思ってなかったので、たじろいでしまいました。いいお姉ちゃんね、このまま仲良く育ってね。(明石、育休中、女、44)

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