(5)コンテンツ 市民とプロ連携、安心感生む
2021/03/02 17:36
兵庫県立大・井関崇博准教授
「イイミミ」が誕生したのは1971(昭和46)年。郵政省(当時)がまとめた75年版の通信白書によると、電話の普及台数は100世帯あたり62・9台(74年度末)だった。半世紀の時が流れ、会員制交流サイト(SNS)で誰もが情報を発信できる。イイミミの持つ意義を、兵庫県立大の井関崇博准教授(コミュニケーション論)に聞いた。(聞き手・太中麻美)
SNSの普及で、市民の情報発信が容易になった。有益な情報が伝えられる一方で、内容がストレート過ぎて配慮を欠いたり、言葉足らずだったりするケースも見られる。
イイミミの場合は、話題を提供するのは市民で、まとめて書き起こすのがプロの記者という連携が、非常にうまくいっているという印象を受ける。担当者がまとめることで、読みやすさやコンテンツとしての質が高い形で担保されている。だからこそ50年間続いてきたのだろう。
明治初期の新聞黎明(れいめい)期には、政治論を取り扱う大新聞(おおしんぶん)と、庶民を対象とした事件、娯楽などを掲載する小新聞(こしんぶん)という区別があった。イイミミのテーマは小新聞に近く、人々の日常の喜怒哀楽を味わい深く描いているので、短いドキュメンタリーを見ているようだ。
また、コーナー「こだま」に登場する「ミミ子」「ミミ男」を軸として、一種のファンコミュニティーが形成されている面も興味深い。どのような企業も、新規顧客を獲得するのが難しくなり、既存の顧客を重視する戦略に転換している。
その一つに、SNSで情報発信する担当者を「中の人」などと位置づけ、具体的な人格を持たせてファンを獲得する、という手法がある。ミミ子とミミ男は匿名だが人格があり、メッセージを発信している点が「中の人」とよく似ている。
この場合、担当者が頻繁に変わると安定感がなくなる。業務の属人化は一般的に御法度とされる中、特定の人物に委ねるのは一つのかけだろう。だが、担当者も自負を持って、読者とのやりとりを試行錯誤しているのではないか。
小新聞のテーマは、行き過ぎるとゴシップなど強烈な内容に向かいがちだ。安心して読むことのできるコンテンツとして、市民とプロの連携を続けていってほしい。
=おわり=
【いせき・たかひろ】1974年生まれ、東京都出身。東京工業大学大学院総合理工学研究科博士後期課程修了。広報、広告のメディアコンテンツやプロモーション手法について研究している。