(3)遺体に化粧「最高にきれい」
2019/06/04 11:40
エンゼルケアの途中、植木則さんの手をスタッフが握った=豊岡市日高町、リガレッセ
時計は朝の9時前を指している。豊岡市日高町の介護施設「リガレッセ」で前日、78歳で亡くなった植木則(のり)さんの「エンゼルケア」が静かに始まった。体をきれいに洗い、身だしなみを整える。
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所長の広瀬みのりさん(53)と看護師の赤江穣(じょう)さん(29)が浴室に入り、台の上に横たわる植木さんにシャワーでお湯を掛ける。「ちょっと冷たいかなあ、ごめんねー」。髪をこすり、体を持ち上げ背中やおしりを洗っていく。
「みとりがあると、自分自身もどこか体調が悪くなるんです。人生の最期に携わることは、すごくエネルギーを使うんですよ」。そう話す広瀬さんの額に、うっすら汗がにじむ。
体液や汚物が漏れないように処置用の器具で鼻などにゼリーを詰めた後、レースのカーテンで仕切られた個室へ運ばれた。
「最期に着せてほしい」と施設に託した洋服に着替える。着物をリメークしたツーピースに、小さな花の刺しゅうが入ったグレーの巻きスカート。爪にピンクのマニキュアを塗る。
介護福祉士の女性(26)が「きれいなお顔」と声を掛け、髪をドライヤーで乾かし始める。植木さんと過ごした約1カ月を思い出すように、手のひらの上に白髪交じりの髪を広げる。顔に少しずつ生前の面影が表れていく。
最後に妹の瀬尾やよいさん(70)が淡いオレンジの口紅をさした。少しはみ出たところを指先でぬぐう。じっと植木さんを見つめ、「顔が変わっていくんですね」と驚いた。
「亡くなった直後に見たときはショックだったけど、その後は少し表情が戻って…。そして、きょうは最高にきれい」
カーテンが引かれ、姉妹の時間が穏やかに流れる。窓から初春の柔らかい光が差し込んでいる。
私たちは植木さんに手を合わせ、そっと右手に触れてみた。シャワーのお湯で温まったからだろうか、ふっくらとしている。
そういえば、私たちはベッドに横たわる植木さんしか知らない。どんな経緯でここにやってきたのだろうか、と気になった。