(6)母の死に悔い みとりの力に

2019/06/07 09:43

利用者に笑顔で接する介護福祉士の山本美穂さん。「デスカンファレンス」では涙を流し続けた=豊岡市日高町、リガレッセ(撮影・秋山亮太)

 豊岡市日高町の介護施設「リガレッセ」で、看護師や介護士ら7人が亡くなった植木則(のり)さんについて語り合っている。 関連ニュース 【大阪・関西万博 EXPO2025】半世紀超え、万博に原子力 電源活用、消費地へ願う 元運転員「思いはせて」 雪の恩恵、100年後も 神鍋の脱炭素化へ観光協会が基金 ハチドリ電力、電気料収入の1%繰り入れ 豊岡市長選、関貫市長が立候補表明 「満足感じるまちに」

 看護師の安東綾子さん(61)は「少し調子のいいときに、身の上話をしてもらえた。今は宝物のような時間だったと感じている」と振り返った。
 介護士の男性は「夜勤になると1人勤務で余裕がなく、事務的に接してしまったかな」。目線をずっと下げたままで、時折「うーん」と考え込んでいる。
 順に思い出や今の心境を語っていく。「もっと好きな歌とか、好きな香りとか、聞いておけばよかった」
 聞き入りながら私たちは、植木さんの死がスタッフの心に波紋のように広がっていくのを感じた。
 ずっと泣き通しだったのは、介護福祉士の山本美穂さん(31)だ。「私にとって、初めてのみとりでした。働き始めて日も浅いので、たまに声を掛けることしかできなかった」。涙声で振り絞るように言った。
 途中から加わったケアマネジャーの女性は「植木さんは入所から亡くなるまでが短かった。もっと家族といろんな話をしながら、ゆっくりと死に向かうことができたら。でも、妹さんは『ここで最期を迎えられてよかった』って。私が言うのもおかしいけれど、皆さん、ありがとうございました」と言い、頭を下げた。
 後日、私たちは看護師の安東さんとゆっくり話をした。安東さんは6年前に夫を、4年前には母親をがんで亡くしている。リガレッセで入所者をみとるたび、「つらく、気持ちが打ちひしがれる」と言う。それでもここで働き続けてきた。
 「何が安東さんを支えているのですか」
 私たちの問い掛けに、安東さんは母親への思いを口にした。母親の病が分かった後、安東さんは勤務先の病院を退職して面倒をみようとしたが、間に合わなかった。そのことを今でも悔いている。だから-。「母にできなかったことを、入所してきた人たちのためにしてあげたいの」
 スタッフでもう一人、気になる人がいる。先日の集まりで、ずっと泣いていた介護福祉士の山本さんだ。

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