(15)連れて帰りたかったなあ

2019/06/18 10:32

料理の手を止め、入居者と話す豊島あゆみさん=洲本市下加茂2、「ぬくもりの家 花・花」

 4月上旬の昼下がり。兵庫県洲本市にあるホームホスピス「ぬくもりの家 花・花」の玄関を開けると、煮物のにおいが漂ってきた。「花・花」を運営するNPO法人の理事、豊島あゆみさん(62)が入居者の晩ご飯を作っていた。 関連ニュース <輪をつなぐ校舎へ>(4)防災教育 海を越え、思い重ねる 賀集小元校長・中田さん(下) <輪をつなぐ校舎へ>(3)学校再開 いつもの場所が癒やしに 賀集小元校長・中田さん(上) Uターンラッシュ本格化 中国道の宝塚西で渋滞10キロ、山陽道神戸JCTは20キロ

 「作りながらでもいい?」。フキの筋を取っていた豊島さんが、ホームホスピスへの思いを聞かせてくれる。
 豊島さんは2003年7月、すい臓がんで夫を亡くした。まだ57歳だった。病気が分かり、2カ月で息を引き取った。セカンドオピニオンで入院した病院でも良くならず、洲本市の病院で逝った。
 夫の死後、考えたことがある。「淡路島がホスピスの島になったらいいなあって。大切な人が最期を迎えた場所を、離れたところに住む家族がいつまでも訪れてくれたら…って」
 そんな話を、経営するカフェの常連客によくしていた。当時の洲本保健所長、柳尚夫さん(62)だ。
 柳さんの紹介で7年前、看護師の山本美奈子さん(61)と会う。カフェで向かい合い、「ホスピスの島に…」と話している途中、山本さんが挟んだ言葉に驚いた。「家でみとることもできるんよ」。山本さんは在宅看護に力を入れていた。
 そこまで振り返って、豊島さんが料理の手を止める。少し涙ぐんでいるように見える。「あの頃は在宅でみとるなんて、思ってもみなかった。山本さんの話を聞いたら涙が出て。泣いて、泣いて。ああ、家に連れて帰ってあげたかったなあって」
 豊島さん家族は02年春、新築のマンションで暮らし始めた。部屋から、淡路島まつりを締めくくる打ち上げ花火がよく見える。だが夫は、1年ほどしか住めなかった。「連れて帰ってあげたかったなあ」。豊島さんが繰り返す。
 帰りたくても家に帰れず、行き場のない人がいるに違いない。柳さんの勧めもあり、豊島さんと山本さんたちは、九州の宮崎市にある全国初のホームホスピス「かあさんの家」へ見学に向かった。そして、淡路島での開設を目指すことになる。
 豊島さんの話を聞いた後、私たちはいつものように、ベッドに横たわる斉藤多津子さん(85)の部屋を訪れた。眠っている時間が長くなっている。

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