(19)最期の日まで「生ききる」
2019/06/22 11:55
「花・花」に入居している西岡里子さん(98)。一日、一日を大切に過ごす=洲本市下加茂2(撮影・辰巳直之)
「死ぬって、怖い?」
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今年2月、初めて訪れた兵庫県豊岡市日高町の介護施設「リガレッセ」で、運営法人の代表理事、大槻恭子さん(42)から問い掛けられた言葉だ。
リガレッセでは、延命治療を拒否し、78歳で逝った植木則(のり)さんの死に接した。息を引き取った後、身だしなみを整える「エンゼルケア」に立ち会い、普段目にすることのない光景に体がこわばった。一方で、人が亡くなるということが、スタッフをはじめ、多くの人の心を揺さぶることを教えられた。
日常に人の死が存在するリガレッセで、所長を務めていた広瀬みのりさん(53)はこう言っていた。「人の死に慣れてはいけない。その人、その人の人生があるのだから」と。
死ぬことは、本当に怖くないのだろうか。私たちはみとりの現場を訪れ、出会った人たちに話を聞いた。
宮崎市にある全国初のホームホスピス「かあさんの家」は、これまで100人以上をみとってきた。運営する認定NPO法人の理事長、市原美穂さん(72)は「入居者の『生きる』をどう支えるか。私たちは亡くなった人から学んでいるのよ」と教えてくれた。
兵庫県洲本市のホームホスピス「ぬくもりの家 花・花」の理事、豊島あゆみさん(62)の話も心に残っている。豊島さんの夫は16年前、病院で亡くなった。別れの瞬間が近づいていたとき、豊島さんは日常とかけ離れた病室で、心拍数や血圧の状況を映し出すモニターばかり気になった。「最期って、お互いに感謝を伝え合う時間やと思うんです。それなのにね…」。後悔の念が見て取れた。
東京に向かった私たちは、がん患者や家族の相談に応じる「マギーズ東京」で、センター長の秋山正子さん(68)に会った。「その人らしく生ききることができるように。そのために話を聞くんです」。人生を終えるまで日々をいとおしむ。「生ききる」とは、そういうことだろうか。
4カ月前、大槻さんの問い掛けに、私たちは「怖いです」としか答えられなかった。大槻さんは「怖くないよ」と話してくれたが、今、問われてもやっぱり「怖いです」と言うしかない。
ただ、多くの人と対話を重ねる中、取材班のメンバー同士で、あるいはそれぞれの家族や友人と、「死」について語り合うようになった。その分、遠い存在だった「死」が近づいてきたと感じる。
人生の最期をどう迎えようか、そこに向かってどう生きようか。この連載がそんなことを考えたり、周囲と話したりする機会につながれば-。そう願っている。=おわり=
(紺野大樹、田中宏樹、中島摩子)
◆連載の第二部は、8月上旬スタートの予定です。