(2)孫の歌声に包まれ、逝く

2019/08/12 10:00

すみゑさんが亡くなる約15分前、孫の色花さんと三獅郎君が手を握りながら「365日の紙飛行機」を歌った=6月18日、小野市内(廣尾理絵さん提供)

 6月18日午後、私たちは小野市の廣尾(ひろお)すみゑさん(68)の言葉に耳を傾けていた。 関連ニュース 西脇工エース新妻遼己、都大路を心待ち 花の1区で「1番手」狙う 全国高校駅男子22日号砲 環境に優しいヘアリーベッチを稲作に 田にすき込むと天然肥料、温暖化防止にも一役 東播磨 返礼品に1200万円のドームテント、高額所得者にPR 加東市ふるさと納税 山国地区産山田錦の日本酒も

 カラオケやハーモニカが趣味で、「歌は生きていく、一番の楽しみでした」と、すみゑさん。苦しそうにしながらも、言葉がつながっていく。
 「病気になって得たこと…」。さらに口が動く。
 「教えてください」と、私たちは耳を近づける。思うように言葉が出ず、「あー、もう」ともどかしがるすみゑさん。声を絞り出すように言った。「飛んでいこう」
 長男の妻、理絵さん(44)が「365日の歌や。ばあちゃんは、どれだけ飛んだかじゃない、という歌詞が好き」と教えてくれる。NHK朝ドラの主題歌になった、アイドルグループAKB48の曲「365日の紙飛行機」のことだ。すみゑさんは入院中から「365日を聞きながら逝きたい」と言っていたらしい。
 小学3年の色花(いろは)さん(8)、2年の三獅郎(さんしろう)君(7)が「ばあちゃーん」と学校から帰ってきた。午後1時半すぎ、2人がすみゑさんの手を握って歌い始める。
 「人生は紙飛行機/願い乗せて飛んで行くよ」
 「その距離を競うより/どう飛んだか どこを飛んだのか/それが一番 大切なんだ/さあ 心のままに/365日~」
 すみゑさんは意識が遠のきつつあるように見えるが、色花さんと三獅郎君の歌声に、「あーあー」「うーうー」と声を合わせる。
 色花さんが聞く。「上手やった?」。すみゑさんは「うー」と返す。家族や友人に、すすり泣きが広がる。
 男性医師が急いでやってくる。「もうしばらくしたら楽になるから。分かったら手を握って」と語り掛ける。すみゑさんがかすかに握り返す。
 三獅郎君が足を踏ん張り、ひっくひっくと泣いている。
 親友の女性が駆け込んでくる。「すみゑちゃん! 来たで!」。高校3年の孫の慶次郎さん(17)も間に合った。
 家族や友人ら16人がベッドを囲む。6畳の和室がいっぱいになる。すみゑさんはあごを動かして呼吸している。次第に間隔が開いていく。
 理絵さんが「もうしんどい思いせんでええ」と繰り返す。「ありがとう」と孫たちが言葉を掛ける。
 男性医師が瞳孔を確認し、告げる。「ご臨終ということです。13時49分。ご苦労さまでした」

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