(7)私たちは死を支える
2019/08/18 09:11
在宅療養の患者の家を訪れ、体調をチェックする北山臣子さん=小野市内
兵庫県小野市の「めぐみ小野訪問看護ステーション」所長の北山臣子(しんこ)さん(55)が、私たちに一人の女性の話をしてくれた。小林津也子(つやこ)さんという。乳がんを患い、45歳で亡くなった。「ホームごたつで亡くなりました。そこが、彼女の居場所だったんです」
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小林さんと北山さんはともに3人の子どもの母親で、末っ子同士が小学校の同級生だった。在宅療養を選んだ小林さんは、玄関に近いリビングのこたつで毎日、寝起きしていた。そこなら2階のベッドにいるより、子どもたちと触れ合うことができる。
2010年春、医師からの連絡で北山さんが駆けつけると、小林さんはこたつに横になり、まさに息を引き取るところだった。
夫が「津也子、ようがんばったよ。ありがとう」と声を掛けると、片方の目からぽろっと涙がこぼれた。
当時を思い出し、北山さんの口調が熱っぽくなる。
「ベッドじゃなくてもいいんです。『いってらっしゃい』と『おかえり』が言えることが大事なんです」
北山さんが訪問看護ステーションを立ち上げたのは、09年のことだ。かつては家でのみとりを支えたくても、制度も地域の体制も十分でなかった。病院に搬送されて延命治療を受ける患者を前に、「家に帰って死ぬのはできないんやな…」と嘆く家族の声をいくつも聞いた。
ステーションでは医師と連携し、24時間体制をとる。北山さんは1日に4、5人の患者をまわる。
患者の女性に死後の毛染めを頼まれ、亡きがらの髪の毛を染めたこともある。「本人が、そして家族が、いい最期だと思えるよう、私たちは死を支える」。それが北山さんの信念だ。
7月初め、私たちは北山さんと一緒に、末期がんで闘病中の佐藤純一さん(仮名)の家を訪れた。
北山さんがオフコースの曲を歌いながら血圧を測り、体をきれいに拭いていく。「あなたに会えて ほんとうによかった/嬉(うれ)しくて 嬉(うれ)しくて言葉にできない」
純一さんの妻、えみさん(仮名)は、その歌声を聞きながら台所で涙を流していた。「お父さん、良かったな。歌、大好きやもんな」
その4日後、純一さんは静かに息を引き取った。