(11)パッと輝き、思い出残す
2019/08/22 11:15
往診先で患者の体調をみる「篠原医院」院長の篠原慶希医師=小野市内
小野市の「篠原医院」の院長、篠原慶希医師(69)は白いヒゲがトレードマークだ。白衣は着ない。
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6月、私たちは篠原さんの往診に同行させてもらった。まず、脳梗塞と糖尿病を患う90歳の男性宅へ。男性は新元号を話題にしつつ、冗談か本気か「早う逝かなあかん、と思てるねん」とつぶやく。対する篠原医師は「早う逝かれへんもんは、逝かれへん。だけど、逝くときには、ちゃんと逝けるから大丈夫」。
採血をしながら「そう簡単に死なへんぐらい出てるわ。悪いように考えんと。はっはっはっ」と豪快に笑った。
往診中はとにかく明るい。そういえば、私たちが5月に初めて会ったときに言っていた。「関東より関西の方がいいと思う。吉本新喜劇みたいなノリでいけるから」
例えば、患者から「私、いつまで生きられる?」と聞かれたとき。「分からん。死ぬまで大丈夫や。死ぬまで生きる。また来るから、それまで生きとってよ」と返す。
こんな掛け合いが患者の不安を和らげる。「一番大切な武器は言葉」なのだそうだ。
篠原医師は終末期の患者に「食べたいものを食べ、酒も飲んでいい」と伝える。私たちが理由を聞くと「なんであかんの? ちょっとした一杯で悪くなるはずがない」「やりたいことを我慢しなくていい」と返ってきた。
かつて担当した36歳の田中健二さん(仮名)がやりたいことは「東京ディズニーランドに行くこと」だった。末期がんで病院から自宅に戻り、亡くなる3カ月前、妻の優子さん(仮名)と2泊3日で出掛けた。篠原医師は事前に、千葉県浦安市の病院に連絡を取るなどサポートした。
私たちが見せてもらった写真にはドナルドダックの帽子をかぶり、ピースをする健二さんの姿。優子さんは「ミッキーに会ったときにはテンションが上がって、車いすから立って歩いた。足は細くなり、体力もなくて、家ではほぼベッドに横になっていたのに」と話してくれた。
「最後に家族とパッと輝き、いい思い出を残し、永遠に心の中に生きていく。みとりは、そんな環境をつくる前向きの医療だ」と篠原医師。
往診を始めた頃、手に取った本がある。鳥取県の「野の花診療所」のことが書いてあった。