(19)「もうダメやな」覚悟の入院
2019/08/31 10:54
病室で清水千恵子さんの肩に手をやる長女香織さん=6月18日、神戸市東灘区
6月上旬、神戸市東灘区の清水千恵子さん(70)から電話が入る。「もしもし~」。声が弱々しい。「今、一般病棟に入院してるねん。痛みが半端なくてね」
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私たちが病院を訪ねると、千恵子さんは大部屋のベッドで横になっていた。5月の検査結果が悪く、入院を余儀なくされたそうだ。悔しそうな表情で、「最初は嫌やって言ったけれど、体は正直。もう持たんと思ったね」と話す。
退院後は自宅に戻って、訪問診療を受けるという。肝臓の腫れによる痛みが強いと話し、「これから家で、この痛みとどう闘っていくかやわ」と続けた。
その半月後、今度は夫の将夫(まさお)さん(75)から私たちに連絡が入る。
6月18日午前、将夫さんは電話口で「容体が急変した」と告げた。千恵子さんは痛みで動けなくなり、自宅に戻ることなく、一般病棟から緩和ケア病棟へ移ったという。
私たちが病室に駆け付けると、千恵子さんが目を閉じ、口を開けたまま「スッ、ハッ」と苦しそうに呼吸をしていた。長女香織さん(40)が「しんどいなぁ」と声を掛け、肩のあたりをさすっている。
将夫さんが私たちに話しかける。「入院した時に『もうダメやな』って、ポロッと漏らしたんです。自分でも分かってたんかな」
千恵子さんが予定を書き込んでいた自宅のカレンダーは、6月はほとんど真っ白なままだという。「それが寂しいです」と言って、涙をぬぐった。
香織さんが仕事に向かうために病室を後にする。部屋には将夫さんのほかに、千恵子さんの兄、河村克彦さん(72)夫妻が残った。
「体が弱かったのに、よくここまで頑張ったわ。ねぇ」。将夫さんが千恵子さんの顔を見つめながら、克彦さんに言う。「ほんまになぁ」と克彦さん。
千恵子さんは勉強熱心で、学生時代は家庭教師のアルバイトに打ち込んだそうだ。夜はラジオで音楽をよく聴き、テレビのお笑い番組は見なかった-。将夫さんと克彦さんが思い出話をしながら、ふっと笑みを浮かべる。
千恵子さんは目を閉じたまま、浅い呼吸を繰り返している。私たちはいったん、病室を後にした。