(2)一緒にいれば…後悔、今も
2019/10/30 05:00
「しっかり者で、おしゃれでね」。弘子さんの捜索ビラに目をやる三谷文男さん=神戸市兵庫区
「いつもご飯食べるとき、『ほら、ご飯やでー』って声掛けるんです」
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私たちは神戸市兵庫区のマンションの一室で、三谷文男さん(88)に会った。
三谷さんの視線の先を見ると、テーブルに敷いたビニールクロスに色あせた紙が挟まれている。妻弘子さん=当時(83)=の捜索用のビラだ。写真の弘子さんはほほ笑んでいる。
弘子さんに異変が見られたのは5、6年前のことだ。買い物へ行くとき財布を捜すことが多くなる。物忘れが続き、病院で軽度の認知症と診断された。
少しずつ料理ができなくなる。内容が分からないので、テレビを見なくなる。自分の名前を書けず、文男さんの名前もすぐに思い出せない。
2017年3月20日、弘子さんは文男さんと鵯越墓園(神戸市北区)に墓参りに出掛けた。そして墓園のバス乗り場で、いなくなった。
お彼岸で墓園は混み合っていた。墓参りを終えた文男さんはバスに一足先に乗り込み、席を取っておいた。ところが、すぐに乗って来るはずの弘子さんが姿を見せない。
「あの日ね、自分の持ってるアクセサリーを全部着けるんかっていうぐらい着けてたんです」と文男さん。ダイヤの指輪、真珠のネックレス、イヤリング…。「墓参りに行くのに、そんな格好おかしいで」と言っても、耳を貸さなかった。
文男さんの通報を受けて警察が調べると、防犯カメラの映像に、数人の女性に交じって別の方向へ歩いていく弘子さんの姿があった。多くの人が行き交う中、そのまま誰の目にも留まることなく、消息を絶った。
夫婦に子どもはいない。「もう独りに慣れんとしゃあない。そう思ってるんです」
文男さんの足元に、弘子さんがかわいがっていたネコの「ふく」がまとわりつく。
「あの日、なんで一緒にバス乗れへんかったんやろう。悔やまれて、悔やまれて…。どこにいるのか。でも、もう私のこともネコのことも全部忘れてるんでしょうなあ」
認知症患者の生活を家族だけで支えるのは難しい。施設に入っても症状が進んで暴力や暴言がひどくなると、退去させられるケースがあるという。どうすればいいのだろう。
患者の家族から話を聞いた私たちは、神戸の医師の元を訪ねた。在宅や施設で終末期を迎えた患者をみとりながら、認知症の患者の支援に取り組んでいると聞いたからだ。
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三谷弘子さんに関する情報は、兵庫署(TEL078・577・0110)まで。