(9)母の異変 ご近所がキャッチ
2019/11/07 10:51
上田満さん、昌子さん夫妻の自宅を訪れ診療する花戸貴司医師(左)=滋賀県東近江市
川沿いの国道を車で進む。運転するのは滋賀県東近江市の永源寺診療所所長、花戸(はなと)貴司医師(49)だ。私たちは診療所から約10キロ離れた上田満さん(93)、昌子さん(85)夫妻の訪問診療に同行した。
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「昌子さんは重い認知症、満さんは寝たきりです。息子さんが向かいの家で暮らしています」。車中で花戸医師が私たちに説明してくれる。
夫妻の家に到着すると、満さんは和室の介護ベッドで、あおむけになって目をつむっていた。3月ごろに大腿骨(だいたいこつ)を折り、寝たきりになったそうだ。隣で横になっていた昌子さんが起き上がり、花戸医師を見て「はな、はな」と口にする。花戸医師が「当たってる」と頬を緩めた。
◇ ◇
上田さん夫妻の斜め向かいに住む長男哲(さとし)さん(59)を訪ねた。両親の介護生活は4年半ぐらいになるという。初めは満さんが大腸がんの手術を機に弱ってしまい、昌子さんが面倒を見ていた。ところが、昌子さんにも異変が見られるようになる。ちょっとした変化に気付いたのは家族ではなく、近所の人だった。
哲さんが当時を振り返る。「すぐそばのお寺で地域の住民が集まる会があって、そこで母が何回も同じことを話したり、物忘れをするようになったりして…。みんなが『おかしい』って」
昌子さんは病院で認知症と診断され、あっという間に食事を作れなくなった。満さんの体もさらに弱り、花戸医師の訪問診療が始まる。
哲さんや妻のきよみさん(58)には仕事があり、日中は両親だけの生活になる。「2人がもう少し元気な時、『このまま一緒にいたい』と言っていた。不安もあるけど、ここまできたら自宅で過ごさせてあげたいね」。哲さんがしみじみと語った。
◇ ◇
「元気かー」。上田さん夫妻の家を近所の人たちが訪れ、声を掛ける。散髪屋を営んでいた女性は、はさみやバリカンを手にやってきて、夫妻の髪を整えてくれる。
「それに、花戸先生やケアマネジャーがうちの妻のことを気遣ってくれ、本当に助かっている。先生には『朝起きて、父の心臓が止まってても救急車は呼ばず、先生に連絡する』って話してる」
淡々とした哲さんの口調に覚悟がにじむ。