(15)認知症「困った人」じゃない
2019/11/14 09:39
高齢者向け賃貸住宅「もくれんの家」。庭に大きなモクレンの木が育つ=相生市
相生市相生(おお)地区の高齢者向け賃貸住宅「もくれんの家」では、認知症がある男女4人が共同生活を送っている。食事や入浴は、近くの小規模多機能型居宅介護事業所「さくらホーム おおの家」のサービスを利用する。
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訪ねてきた家族と会ったり、公民館の体操教室に参加したり、近くの美容院に行ったり。「できる部分は自立しながら、地域のコミュニティーの中で生きる。認知症の進行が遅く、介護度が下がった人もいます」。理学療法士の渡部政弘さん(38)が教えてくれた。
毎朝、「おおの家」のスタッフが見守りに行く。入居者がごみを部屋に隠していることもあるが、捨てる場所を分かりやすく伝えれば、自分で処理する。季節に合わない服を着ていたら、話をして着替えてもらう。「苦手なところはフォローすればいいんです」と渡部さん。
そして、入居者の多くが「もくれんの家」や「おおの家」で最期を迎えてきた。
◇ ◇
渡部さんたちと話をしながら、私たちは認知症のことをどれだけ理解しているのだろうと思った。
「おおの家」の副施設長で看護師の辻下奈美さん(56)が、こんな話をしてくれた。まだ病院に務めていたころの経験だ。「あの頃はね、認知症の人は『困った人』だと思ってたのよ。体の一部しか、病気しか、見てなかった。介護の世界で働くようになって、その人の全部を見るんだって分かったんよね」
「認知症の人は『困った人』じゃないんよ。忘れたり、言うことが理解してもらえなかったりするけど、その人が困った人なんじゃないの。接していた私が困っていただけなの」
◇ ◇
「もくれんの家」ができたのは2010年だ。庭を開放し、住民向けの催しも開いてきた。入居者と住民が触れ合う中で理解が広がる。私たちは近くの理容店で男性店主(70)に話を聞いた。
「夜11時ぐらいにテレビを見てたら、おばあちゃんが扉をコンコンって。はだしで立っててね。2回あったよ」。すぐに「おおの家」に連絡した。「スタッフも入居者も、みんな顔なじみ。特別なことちゃうよ」
もくれんの家は、そんなご近所さんに支えられている。