(8)何とも言えぬ思い残った

2019/12/17 11:04

団地内を歩く民生委員の林牧子さん

 私たちは東播地方の団地を訪れている。番号の付いた5階建ての集合住宅が整然と並ぶ。まち開きから50年以上が過ぎ、今では高齢化率が4割を超える。昼間でも行き交う人は少ない。

 「ここができた時から住む人は私よりも上の世代です。子どもは外に出て、独りか夫婦で暮らす高齢者が多いの」。集会所で住民の林牧子さん(70)が教えてくれる。
 林さんは15年ほど前から、民生委員として独居高齢者の生活を見守る。これまでに何度か、住民の孤独死を目の当たりにしたことがある。
     ◇     ◇
 「最初に携わった孤独死が尾を引きずってるの」。そう言って、林さんが民生委員になって間もない頃に関わった男性の話をしてくれた。
 男性は50代ぐらいで妻に先立たれた後、家に引きこもりがちになった。家賃を滞納し、生活保護を申請するように勧めても乗り気でなかったそうだ。林さんは毎日、朝と晩に男性の部屋を訪ね、手紙を添えたおにぎりを玄関のドアノブに掛けたが、いつもそのまま残っていた。
 しばらくして、団地の管理者の一行がやって来て「強制執行します」と告げた。男性の部屋から出てきたところへ「元気でしたか?」と声を掛けると、1人が首を横に振った。
 男性は生前、腕に黒い斑点があり、体が弱っているように見えた。林さんは「病気があるかもと思ったけれど、何もしてあげられなかった」と後悔を口にする。
 男性が自殺したのか、それとも衰弱した末の死だったのか、分からないままだ。
     ◇     ◇
 今年9月、林さんが10年ほど関わった男性が自室で亡くなっているのが見つかった。近所の人が階段に漏れ出た臭いで、異変に気付いたという。10月には別の独居男性が部屋で倒れたまま、誰にもみとられず息を引き取った。
 「私が担当する号棟だけで孤独死が2カ月続いた。団地全体ではそれなりの頻度で起こってると思うし、起こり得るんよね」と林さん。
 「孤独死は携わっていた人や発見者に、何とも言えない思いを残す。本人もつらかったと思うけど、家族もつらいよ」と言って、こうつぶやいた。「私の身内も孤独死しているの」

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