(18)納得の終章、選べれば

2019/12/27 10:00

医療スタッフに支えられる末期がんの女性(左から4人目)。独り暮らしだが、家での最期を希望している=岐阜県本巣市

 独り暮らしの晩年には寂しいイメージがある。独りにさせてしまった、と負い目を感じる家族もいるだろう。それでも連載を読み終えて、「まあいいか」と受け止めてもらえるような物語を届けたい。私たちはそう話し合い、シリーズ第四部を書き進めた。

 最初に取り上げたのは「孤独死」だった。大阪府東大阪市の女性(50)の父親は今年8月、死後10日近くたった状態で発見された。誰かが同居できればいいが、女性はシングルマザーだ。生活保護を受給しながら3人の子どもを育てている。妹は亡くなり、母は老人ホームにいる。
 誰でも独り暮らしになる可能性がある。誰にもみとられずに逝くかもしれない。私たちはそう実感した。
 だが「孤独死」は不幸なのだろうか。「家で死にたいと思う人は多い。孤独死はいい。だけど孤立はだめ。『見つけてあげる』という支え方が必要じゃないですか」。遺品整理会社「メモリーズ」(本社・堺市)の社長、横尾将臣さん(50)の言葉に私たちはうなずく。多くの現場を見てきただけに説得力があった。
     ◇     ◇
 「私は、家におりたい」。そんな胸の内を明かしてくれたのは、夫と長男を亡くし、今は姫路市に独りで暮らす女性(70)だ。末期の膵(すい)臓(ぞう)がんという。延命治療は望んでいない。
 住み慣れたわが家で最期を迎えたいという女性は、わがままなのだろうか。岐阜県に向かった私たちは、独り暮らしの「在宅みとり」に力を入れる小笠原文雄(ぶんゆう)医師(71)に会った。
 「独居は孤独、という概念を覆したい」と小笠原医師は語る。最期まで家にいるには、24時間態勢で暮らしを支える医師や看護師らのチームが必要と教えてくれた。実際、多くの独居の患者をみとっている。
 小笠原医師の紹介で訪ねたのが、神戸市須磨区の「北須磨訪問看護・リハビリセンター」所長、藤田愛さん(54)だ。約200人の在宅療養を支える藤田さんは「みんな迷いながら、生き抜くんだと思います」と話してくれた。
 連載の初めに「他人様でもそばにいてほしい」という読者の声を紹介した。私たちはその願いが形になったような取り組みに出合った。神奈川県藤沢市の団地で、認知症の女性がシングルマザーの親子とルームシェア(同居)を始めた。見ず知らずの他人だが、それぞれ経済的なメリットがある。独り暮らしだった女性は、何より人の気配がある生活に安心感を得ているようだった。
     ◇     ◇
 独りでの生活でも、終章の生き方や思い描く臨終を選ぶことはできる。不安は完全には消えないけれど、緩やかでもいいから人とつながり、納得できる最期を迎えられたら-。そんな選択肢は確かにある。だったら、独りもそんなに悪くはないはず。私たちはそう思っている。=おわり=
(紺野大樹、中島摩子、田中宏樹)

神戸新聞NEXTへ
神戸新聞NEXTへ