(5)居たいけど、近寄れない
2020/02/06 08:45
(絵本「ベッドからの手紙」より)
21年前に前妻を自宅でみとった西宮市の吉田利康さん(71)は、2005年に再婚した。「僕が生きていくために、再婚しました」。今、相手の恵子さん(57)と夫婦で「命」をテーマにした絵本を発表している。
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恵子さんも再婚で、17年前に前夫を亡くした。「絵本を作ってるのって、人のためとか、そんなおこがましいものじゃないんです。絵本を作ることで、胸の中の思いを大事にしてきたというか、整理してきたんです」と話す。
五つ年上だった前夫、堤則夫さんは03年2月、食道がんと診断される。当時、2人は東京で暮らしていた。
恵子さんの話を届けたい。
◇ ◇
「私、腰抜かしてしまったんですよ」。恵子さんがくすっと笑う。則夫さんとともに、医師に告知されたときのことを振り返っている。
「恐らく、食道がんです」と伝えられ、恵子さんは病室の隅で立てなくなったそうだ。「『きょうはここに居させて!』って言ったんです。でも、則さんは『俺は大丈夫。帰っていいよ』って」。結局、恵子さんは一人で帰った。
則夫さんはその後、いったん退院したものの、夏に再入院する。何も食べられない日が続き、医師に「もうしてあげられることはありません」と告げられる。則夫さんはベッドの上でずっと天井を見ていたという。
恵子さんは「私、帰るね」と言って病室を出る。「一緒に居たいんだけど、ね」。どうしても近寄ることができなかった。
◇ ◇
則夫さんが最期の場所に選んだのは、別の病院のホスピスだった。2人でホスピスを訪れ、医師や看護師と向かい合って座る。「あなたは死を受け入れていますか。どうしてここに来たのか、分かっていますか?」。医師が則夫さんに尋ねる。
「私は痛みを取ってもらいに来ました。痛みがなくなれば、また治療したいと思っています」と則夫さん。
「ここは治療するところではありませんよ」。医師が諭すように言う。
「分かってるんです。でも、僕の口からは言えません」。そう言って、則夫さんはむせび泣いた。