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精神科医は見た
何となく気持ちがざわざわしていませんか。
精神科医の松井律子さんが「読むクスリ」をお届けします。
あなたの心に効くことを願いながら。
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錦秋
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錦秋

 本阿弥光悦が鷹峯に徳川家康から土地を賜って400年という今年、京都をはじめ、あちこちで琳派の展覧会が行われています。本阿弥光悦、尾形光琳・乾山兄弟、酒井抱一など造形芸術で多彩な才能を発揮した琳派の面々は空前の芸術家集団でした。

 と、格調高く書き始めたが、実は私の場合「リンパ」と耳にすると「リンパ節」をどうしても思い出してしまうのである。

 医学部の専門課程に入って一番初めに習ったのは組織学で、人体各部の組織標本を顕微鏡で観察し、それらをスケッチする実習があった。その実習が延々と3カ月くらいは続く。スケッチは提出すればよいというものではなく、担当教授がOKを出すまで繰り返し提出し続けなければならない。

 組織標本を来る日も来る日も顕微鏡でのぞき、スケッチを続ける。「いけましぇん」を連発するという担当の先生の恐ろしさは先輩からたっぷり聞かされていた。怯えて始めた実習だったが顕微鏡をのぞいていると実に美しい。組織標本は、ヘマトキシリン・エオジン染色といって紫色とピンクの色に細胞が染めるのが標準的だ。「リンパ節」の標本をのぞくと、リンパ球、分節核球、単球などが一面に見えて見飽きない。膵臓のランゲルハンス島の標本などは、もっと美しい。これはビクトリアブルー・フロキシン染色という染色法でアルファ細胞とベータ細胞を染め分ける。鮮やかなブルーとはんなりしたピンクで一面に疋田絞りを施したように見え、振袖の模様にしたいくらいだ。

 夢中でスケッチしていると背後から大きな声が聞こえてくる。「いけましぇん。太い線で描いとるけど、その細胞膜は薄いはずでしゅ」。そこで慌てて我に返り、鉛筆を尖らせ描き直す。もう一度目を凝らして観察し、上手く描けるとうれしくてならない。

 春と秋の文化財の公開シーズンともなれば、その先生は毎週のように京都や奈良に仏教美術の鑑賞に出かけられる。そのお供をするうち門前の小僧となり、今度は神社仏閣・博物館・美術館巡りにはまるのであった。何事にもはまりやすい私は医学生時代に美術鑑賞熱に感染し、慢性化して今に至るもまったく回復の兆しはない。琳派の展覧会と聞けば、「都へ上らなければ」とうわ言のようにつぶやく。

    ◇

 コラム横にある挿し絵は、脳神経外科医で、大西脳神経外科病院(明石市)理事、神経科学研究所長の垰本勝司さんの作です。垰本さんは1967年広島大学医学部を卒業。神戸大学脳外科講師や兵庫県立成人病センター脳外科部長を務めました。

執筆者のプロフィール
精神科医 松井 律子
まつい心療クリニック院長(神戸市東灘区)
専門分野:うつ病、身体表現性障害(心身症)、女性のストレス関連疾患、その他精神疾患一般

1990年神戸大学大学院医学研究科卒業、1991年学位取得
神戸大学医学部付属病院精神神経科、加古川市民病院神経科勤務を経て、1997年より、神戸市東灘区で、まつい心療クリニック院長として診療に従事。心と体を密接不可分な一体として把握し、一人ひとりのオーダーメイドの治療を旨とする、ハートケアの概念の実践を目指している。2003年4月から2005年3月まで神戸新聞紙上に『800字の処方せん』を連載。

著書:
男医にはわからないこと―ハートケア事始め―三五館,1997年10月刊
「疲れた心」を軽くする本―PHP研究所刊,2010年10月刊

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