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精神科医は見た
何となく気持ちがざわざわしていませんか。
精神科医の松井律子さんが「読むクスリ」をお届けします。
あなたの心に効くことを願いながら。
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落日のブルーモスク
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落日のブルーモスク

 秋の夕焼けは美しいと言われますが、夕暮れ時は診療中で、気がついたら日が暮れてしまっています。会社勤めの方もたいていは、そんな感じで夕暮れ時を過ごされているでしょう。観光に出かけた時にくらいでしょうか、日の暮れ行くのをじっと見ていたりするのは。

 たまたま早めに自宅に帰り、ふと西の空を見上げると空が暮れなずんでいくのが見えました。美しい茜色の空が一面に見え、目を離すのがもったいないくらい。小野竹喬(おのちっきょう)の風景画に描かれる茜色には定評がありますが「これは絵に表現された色なのだ」と思ってきました。明るい茜色であったのが徐々に暗くなり、やがて群青色に暮れてゆくのを見ていると色の微妙な変化が面白く、自然の色の豊かさに驚くばかり。本当に空は茜色に暮れてゆくのだと初めて知りました。

 茜色はピンクより深みのある、岩絵の具でいえばサンゴの細かい粒子で出す色がもっとも近い色ですが、柔らかい暖かさのなかに物悲しい感じも漂います。竹喬は第二次世界大戦でご子息を失いましたが、その悲しみのなかで絵を描き続け、「茜色の画家」と呼ばれるほど美しい茜色を生み出したと言われています。

 絵画表現には大きく分けて2つあります。細部まで忠実に現実を再現する方法と、対象のエッセンスだけを形にして、あとは見る者のイメージに訴えるという方法です。竹喬は、年齢とともに細部を削ぎ落とし、対象のエッセンスを見事に絵に表現するようになりました。暖かい色調に包み込んで構成した竹喬の風景画は見る者の心に深く刻まれます。若い頃描いたスケッチブックや下絵がたくさん残されていますが、詳細な表現と高度な写実テクニックが明らかに見て取れます。そこから晩年の至福感に満ちた風景画の世界が、いかにして生まれるのでしょうか。人の心の変化・成熟は興味の尽きないものですね。

 これでこのコラムは最終回です。話題を考えるために周囲の人や出来事を観察するのが習いとなり、少しは考えを深めようとする習慣もついたように思います。2年間おつき合いいただき、本当にありがとうございました。読んでくださった皆さまと、またどこかでお会いできたらうれしいと思っています。

    ◇

 コラム横にある挿し絵は、脳神経外科医で、大西脳神経外科病院(明石市)理事、神経科学研究所長の垰本勝司さんの作です。垰本さんは1967年広島大学医学部を卒業。神戸大学脳外科講師や兵庫県立成人病センター脳外科部長を務めました。

執筆者のプロフィール
精神科医 松井 律子
まつい心療クリニック院長(神戸市東灘区)
専門分野:うつ病、身体表現性障害(心身症)、女性のストレス関連疾患、その他精神疾患一般

1990年神戸大学大学院医学研究科卒業、1991年学位取得
神戸大学医学部付属病院精神神経科、加古川市民病院神経科勤務を経て、1997年より、神戸市東灘区で、まつい心療クリニック院長として診療に従事。心と体を密接不可分な一体として把握し、一人ひとりのオーダーメイドの治療を旨とする、ハートケアの概念の実践を目指している。2003年4月から2005年3月まで神戸新聞紙上に『800字の処方せん』を連載。

著書:
男医にはわからないこと―ハートケア事始め―三五館,1997年10月刊
「疲れた心」を軽くする本―PHP研究所刊,2010年10月刊

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ネクスト編集部 webhensyu@kobe-np.co.jp
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