精神鑑定の医師 一問一答
2017/03/07 11:06
兵庫県洲本市で男女5人が刺殺された事件で、殺人などの罪に問われた平野達彦被告(42)の裁判員裁判が22日、神戸地裁であった。平野被告の精神鑑定をした医師が質問に応じ、「薬剤性の精神障害があるのは確かだが、責任を取る意味での人格自体は保たれていた」と述べた。
検察側と医師との主なやり取りは次の通り。
-被告が訴える「音声通信」とはどんな症状か。
「具体的な音声の内容を述べていないので判断しかねます。幻聴で一般的に見られる『独り言』や『独り笑い』の症状はありません。ただ、考えたことが頭に思い浮かぶ『自我障害』は疑わしいと思っています」
-事件時に症状は悪化していたか。
「事件の際に妄想は続いていますが、事件前後は冷静に行動しており、妄想が活発化したような状態ではなかったと思います」
-鑑定結果の説明で「(被告は)事件時に平素の人格があった」と述べられた。
「思考が解体して物事が考えられないわけではなく、理性的に判断できる状態だったということです」
-被告は、リタリン(向精神薬)が欲しいがために周囲に殺人事件の実行をほのめかすなどしている。つまり、そうした粗暴な人格が影響したということ?
「そう言えると思います」
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弁護側と医師との主なやり取りは次の通り。
-人格自体は事件そものに影響するのか。
「責任を取れる人格機能はあるということです。ただ、妄想がどの程度、事件に影響したかが重要です。妄想がなければ十分責任が取れます」
-被告が主張する「思考盗聴」が事件に及ぼした影響は。
「本人が長期間、工作員から攻撃を受けているという妄想に苦しみ、『我慢し続けた結果、報復した』と言っているわけですから動機の一つになったと考えます」
-それならば、被告は妄想を前提に意思決定をしたということが言えるのでは。
「そうだと思います」
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裁判官と医師とのやり取りは次の通り。
-妄想であっても、『あり得ない』と証明してあげれば訂正できるものではないのか。
「一般的に考えるとそうですが、精神障害があるのは確かで、訂正しようにもできない状態だったと考えます」
-被告は鑑定時になって急に『ブレインジャックされた』と言いだした。妄想ではなく、後付けや自己弁護ではないのか。
「逮捕後に本で読んだ知識などから自らの妄想に意味づけを加えたものとみられ、妄想の一部と判断します」
-動機が妄想の影響を受けていても、実行へと突き動かしたのは、被告本人の判断だった。そういう理解でいいか。
「殺人を選んだのは、本来の判断だったと考えます」
-正常な心理による?
「そうです」
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裁判員と医師との主なやり取りは次の通り。
-今回の妄想について「被告がうそをついているとは思えない」と述べられたが、本当に言い切れるか。
「電磁波攻撃を告発する活動も長期間にわたって続けており、虚言とは考えるのは無理があります」
-事件を発生させない場合、どう働き掛ければよかったか。
「精神障害者に明らかに攻撃性が認められる場合は関係機関が協力して関わるべきです。ただ、被告は(通院を中断し)自分の世界に入っていきました。現在、新たな制度がつくられつつあります」