(2)お通夜週間 最後のお別れ、すべての人と
2020/03/21 17:28
2人だけの時間。人工呼吸器は外されている
■7日間自宅開放。24時間会いに来てOK
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じきしんが亡くなったのは4日前だ。今、冷たくなった彼のそばでこの原稿を書いている。
突然の知らせで途方に暮れていたら、「僕の顔を見ながら書けば、なんとかなるんじゃないの」というじきしんの声が聞こえた気がしたからだ。
甘えて、そうすることにした。幸い(この表現がふさわしいとは思えないけれど)、じきしんはいつもと同じように、ベッドの上でこんこんと眠り続けている。
違うのは、すでに心臓が止まっていて、人工呼吸器を外していることだけだ。
「脳死に近い状態」のまま1498日を生き抜き、中崎小の卒業を目前にした2月13日に亡くなった小川直心君。
通常なら翌日には通夜、その翌日には葬儀・告別式となるのだが、それではあまりに急すぎて、最後のお別れができない人が出てしまう。
「それは嫌。じきしんを好きになってくれたすべての人がお別れできるようにしたい」。それが母、優里さん(45)の考えだった。
エンバーミングという方法がある。そう友人が教えてくれた。防腐措置をすれば、お葬式を1週間ほど先延ばしすることができるという。それまでの7日間は自宅を開放し、訪ねてきた人がいつでもじきしんに会えるようにしたのだ。
「お通夜週間ね。24時間OKです」。優里さんが笑った。
じきしんが生まれ育った家は、明石駅から徒歩10分、明石港を見下ろすマンションの14階だ。
そこに祖父母、母の4人で暮らしていた。だが、交通事故にあって通院やリハビリの必要が出てきた2年前、母子は神戸市中央区のマンションに転居した。
中崎小にはJRに乗り、優里さんが車いすを押して約40分かけて通った。
優里さんには特技がある。部屋の飾り付けだ。
膨大な写真と絵、メッセージボード、カラフルな旗や装飾品で埋め尽くし、殺風景な部屋を「じきしん空間」に変えてしまう。
瀕死の状態で入院した病院の個室も、あっという間に飾り付け、医師や看護師を「パーティー会場みたい」と驚かせていた。
2人暮らしをしていた神戸のマンションの一室も、パーティー会場のようだった。そのど派手な1LDKの窓寄りに、じきしんのベッドがある。
お通夜週間が始まった2月17日。老若男女がひっきりなしに顔を見せた。じきしんが亡くなった日のことを優里さんがユーモアたっぷりに話すから、“お通夜会場”なのに笑い声が絶えない。
じきしんのおでこをなでたり、くせ毛を引っ張ったり。いつもと変わらない時間を過ごし「じゃあ、またね」と帰っていく。
初日だけで70人は訪れただろうか。日付が変わる直前、ようやくじきしんと優里さん2人だけの時間に戻った。
「ね、すごい子でしょ。黙って寝ているだけなのに、人を引きつける。4年前、交通事故にあって『あと2、3日の命』とお医者さんに言われた時も、集中治療室は今日のように笑い声でいっぱいでした」
いつも走り回ってばかりいたサッカー少年。くるくるの栗色くせ毛がよく似合い、キッズモデルの審査に合格してファッションショーに出たこともある。
まだ人生の歩みを始めたばかりの活発な少年に4年前、何が起きたのか。
私たちはそこから語り始めないといけない。