(4)救急搬送 外傷少なく、いつもの寝顔に見えた。
2020/03/23 17:28
眠り続けるじきしん
2016年1月8日。日が落ちて2時間ほどが過ぎていた。
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神戸市内の会社で仕事をしていた優里さん(45)が、家族に起きた異変を理解したのは、篠山署の警察官が携帯電話に知らせてくれた一報だった。
じきしんと祖父、祖母を乗せた車が丹波篠山市内で事故を起こしたこと。現場に救急車とパトカーが急行したが、大破したキャンピングカーの運転席から運び出された祖父とじきしんには意識がなかったこと。
だが、祖母は意識があった。優里さんは、じきしんが救急搬送された兵庫県災害医療センター(神戸市中央区)に駆けつけた。
集中治療室のベッドに寝かされていたじきしんは、思ったよりも「普通」だった。マンガに出てくるような包帯でぐるぐる巻きの姿を想像していたが、目立った外傷はない。顔もきれいだ。
いつもの寝顔に見えた。
搬送後、暴れたじきしんは鎮静剤を打たれた。その後、事故の衝撃による脳出血の血を抜く手術も無事終わり、あとは意識が回復するのを待つだけという。
「命に別条はない」との説明も受けた。
祖父(優里さんの実父)は西宮市内の病院で亡くなった。優里さんは、祖母(優里さんの実母)が搬送された尼崎市内の病院に向かった。肺が破裂し、右手首を複雑骨折する重傷だったが、意識はあった。病室で教えてくれた。
運転中、脳出血の症状で硬直していた祖父は、T字路の壁に猛スピードで激突する直前、動かない口で「ごめんな」とつぶやいたという。
そのおかげで車は運転席の方から壁にぶつかった。
「お父さんは、じきしんと私を助けようとしたと思う」と祖母は言った。
ふだんから人を責めたりしない優里さんだったが、この時もそうだった。
「命の恩人です」。心から父に感謝した。
後に、祖父がハンドルを少しだけ左に切っていたことが、ドライブレコーダーの映像で分かった。
事故から数日間、1人で父の葬儀と事務処理を済ませ、関係先に謝罪して回った。
ベッドの上のじきしんは、こんこんと眠り続けている。