連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

京から富岳へ~スパコンの今

  • 印刷
風洞実験では観察できない下から見た空気の流れも表現できる(作成=理研/協力=スズキ株式会社)
拡大
風洞実験では観察できない下から見た空気の流れも表現できる(作成=理研/協力=スズキ株式会社)
車の周りの空気を3500万個に区切っていた従来のコンピューターシミュレーション(左)と、23億個に区切ったスーパーコンピューター京の画像(作成=北海道大、理研/協力=スズキ株式会社)
拡大
車の周りの空気を3500万個に区切っていた従来のコンピューターシミュレーション(左)と、23億個に区切ったスーパーコンピューター京の画像(作成=北海道大、理研/協力=スズキ株式会社)
京でのシミュレーションを説明する理研チームリーダーの坪倉誠・神戸大教授=神戸市中央区港島南町7
拡大
京でのシミュレーションを説明する理研チームリーダーの坪倉誠・神戸大教授=神戸市中央区港島南町7

 神戸・ポートアイランドのスーパーコンピューター「京(けい)」が30日、本格稼働から約7年でシャットダウンされる。世界で初めて毎秒1京回(京は兆の1万倍)の計算速度を達成し、約7年間にさまざまな分野で成果を挙げてきた。後継機「富岳(ふがく)」(2021年運用開始予定)にバトンタッチするこの機会に、京によって飛躍的に発展した計算科学の世界を4回にわたって紹介する。(霍見真一郎)

 トヨタや日産、ホンダなど日本の主要自動車メーカーと理研など約20団体が2011年、産学連携コンソーシアム(共同事業体)を立ち上げた。世界市場でしのぎを削る国内のライバル企業同士が共同戦線を張り、新製品開発に向けた性能評価で協力することになった。“呉越同舟”が実現した背景には、神戸・ポートアイランドにあるスーパーコンピューター「京」の計算力があった。

 自動車のニューモデル開発は、数多くの候補を作り、性能評価を経て絞り込んでいく作業だ。評価の鍵になるのが、実際にボディーの模型などに風を当てて空気抵抗などを見る「風洞実験」。実験装置は体育館のような大きさで、巨大な送風機で風を送るだけでなく、実際に車を走らせるために巨大ベルトコンベヤーを高速で動かす。実験装置の建造には、数十億円から100億円かかるといわれている。同時に複数台の実験はできず、そのコストは自動車メーカーに重くのしかかっていた。

 11年当時、各メーカーもコンピューターシミュレーションはしていたが、機器やシミュレーションの内容を互いにほとんど開示していなかった。しかし、理研チームリーダーを務める坪倉誠神戸大教授(50)の「海外の自動車メーカーが10年先に手に入れるデータを先取りできる」という呼び掛けに応じ、共同事業体立ち上げに動いたという。

【動画】「車線変更時の気流」はこちら

■風洞実験以上

 各メーカーが風洞実験の補助に使っていたコンピューターと比べ、京は約1000倍(11年当時)の演算能力を誇る。メーカーはシミュレーションする際、車の周りの空気を1辺1センチ弱の三角すい3500万個で区切って表現。一方京は1ミリ以下の23億個に区切り、圧倒的に詳細な空気の動きを示せる。京は変わりゆくリアルな気流を動画で再現できた。これにより、これまで分からなかった車体に与える空気の力の仕組みが次々に判明した。

 それだけではない。風洞実験では再現できない突風時や追い越し時などの動きも、京はテストドライバーのデータを活用して再現してみせた。スパコンの活用により、車の隙間などから異音が発生するかも、設計段階で判断できるようになることが期待されている。

【動画】「空気の流れ、より詳細に」はこちら

■AIを活用へ

 車の形は、流線形を追求すれば抵抗が少なくなるが、同時に上へ持ち上げる力を生み、走行安定性で劣る。一方、燃費性能が高くてもデザインが悪くては売れない。これまで技術者同士、あるいはデザイナーと技術者間でそうした議論をする際、データとなる風洞実験の結果が出るのには、非常に時間がかかっていた。

 実際の実験を必要としない京のシミュレーションによって、風洞に替わる可能性が示された。後継機「富岳」の計算能力向上に加え、部品同士のわずかな隙間やねじ穴などをシミュレーション前に一つ一つ手作業で「埋めて」いた作業を工夫することで、画期的なスピードアップも図れそうだ。時間短縮が進めば、デザイナーと技術者が、瞬時に性能数値を算出しながら議論することも夢ではなくなるだろう。

 さらに、人工知能(AI)によって、燃費や走行安定性などが良い車のデザイン案を、スパコンが自動的に計算していくシステムも開発中だ。いずれはコンピューターが新しいモデルを提案する時代が来るかもしれない。

2019/8/28

天気(9月30日)

  • 24℃
  • 21℃
  • 60%

  • 24℃
  • 17℃
  • 60%

  • 26℃
  • 20℃
  • 30%

  • 27℃
  • 18℃
  • 60%

お知らせ