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京から富岳へ~スパコンの今

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タイヤ用ゴムの摩耗現象を分子レベルでシミュレーションした画像。ひも状のポリマーが球体のシリカにまとわりついている。(住友ゴム工業提供)
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タイヤ用ゴムの摩耗現象を分子レベルでシミュレーションした画像。ひも状のポリマーが球体のシリカにまとわりついている。(住友ゴム工業提供)
タイヤ用ゴムの摩耗現象を分子レベルでシミュレーションした画像。ポリマーとシリカの境目に穴(中央の黒い部分)が空き、摩耗につながる破壊が始まっている(住友ゴム工業提供)
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タイヤ用ゴムの摩耗現象を分子レベルでシミュレーションした画像。ポリマーとシリカの境目に穴(中央の黒い部分)が空き、摩耗につながる破壊が始まっている(住友ゴム工業提供)
2016年に発売した「エナセーブNEXTⅡ」(住友ゴム工業提供)
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2016年に発売した「エナセーブNEXTⅡ」(住友ゴム工業提供)
シミュレーションを担当した住友ゴム工業研究開発本部研究第一部の内藤正登課長=神戸市中央区脇浜町3
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シミュレーションを担当した住友ゴム工業研究開発本部研究第一部の内藤正登課長=神戸市中央区脇浜町3

 「低燃費」「グリップ」「(すり減りにくい)耐摩耗性」。タイヤに求められる三つの性能は相反関係にある、というのが業界の常識だ。だが2016年、大手の住友ゴム工業(神戸市中央区)は、三つの性能を高レベルで兼ね備えた製品を発売した。開発に大きな役割を果たしたのは、神戸・ポートアイランドのスーパーコンピューター「京(けい)」(8月30日シャットダウン)を活用して解明した、分子レベルでの摩耗のメカニズムだった。(大島光貴)

 タイヤ用ゴムはポリマーと呼ばれるゴム、補強材のシリカ(二酸化ケイ素)、それらを結びつける結合剤などを混ぜて作る。性能に大きく影響するのが、道路との接地面「トレッド」だ。

■摩耗のメカニズム

 「ダンロップ」ブランドで知られる同社は1990年代、タイヤ開発にいち早くコンピューターシミュレーションを活用。2000年代には、技術者の勘と経験頼みだった材料開発にも導入した。大型放射光施設「スプリング8」(兵庫県佐用町)を使い、タイヤ用ゴムの内部構造をナノレベル(1ナノメートルは10億分の1メートル)で観察。燃費悪化につながる走行時の発熱メカニズムを社内スパコンで解明した。12年、発熱しにくくすることで燃費を向上させたタイヤを発売した。

 次に挑んだのが、耐摩耗性能の向上だ。摩耗は、分子が切れて亀裂が広がる結果として起こる。だがそれを調べるには、粒子約1・4億個分の大規模な計算が必要となる。従来のスパコンでは難しかったが、その約千倍の演算能力を持つ京だからこそ実現できた。

 同社が京の活用を始めたのは12年。スプリング8と大規模陽子加速器施設「J-PARC」(茨城県)での測定データを基に作った、350ナノメートル四方の高精度ゴムモデルから、摩耗の状況をシミュレーションした。タイヤ用のゴムの中は、ひも状のポリマーが球体のシリカにまとわりつくような構造で、外から力を受けると両素材の境目に穴が空き、そこを起点に剥がれが起こることを突き止めた。

 「ポリマーとシリカの結合剤を変えれば、穴が開くのを抑えられるのではないか」。同社の研究開発本部研究第一部の内藤正登課長(42)らは、両素材を取り持つ結合剤の長さや数を変え、京でシミュレーションを繰り返した。その結果、結合剤を従来より長くすると、境目がより柔軟に変形できると判明。それによって穴の発生を抑え、摩耗の低減を実現できた。

【動画】「分子レベルでのタイヤの摩耗」はこちら

■神戸の企業として

 この新材料開発技術を採用した試作タイヤは、低燃費とグリップ性能を維持しつつ、耐摩耗性能が高まった。16年には、同性能を従来品比で51%高めた乗用車向けタイヤ「エナセーブNEXTⅡ(ネクストツー)」を発売した。

 「摩耗の理屈が分かったことで、大きく性能を向上させられた」と内藤課長。京のお膝元、神戸の企業として、「自分たちが成果を出さなければ、という意識があった」と振り返る。京の後継機「富岳(ふがく)」を使えば「低燃費やグリップ性能につながる変形の繰り返しを、より高精度に解析できるはず」と見る。三大性能をさらに向上させる、未来のタイヤへの期待が膨らむ。

2019/9/11

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