がんゲノム医療って何?
2019/08/28 11:24
神戸新聞NEXT
「がんゲノム医療」という言葉をニュースなどで耳にするようになりました。高額医療の一つですが、6月から公的な医療保険の適用が始まり、利用が拡大するとみられています。実は神戸の企業も深く関わっています。(長尾亮太)
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-がんゲノム医療って、何?
「患者の遺伝子を調べ、その人に最適な薬を選ぶ治療の進め方だよ。そもそも、がんは遺伝子の変異が起こることによって発症するんだ。がんの原因となった遺伝子の変異ごとに分類し、患者一人一人にとって効果が見込まれる薬を見つける、いわば『オーダーメード型』の治療ともいえる。がん細胞について観察するだけでなく、遺伝子レベルで異常を捉える次世代型の医療なんだ」
-従来のがん治療と、どう違うの?
「例えば、これまでは『肺がんにはA薬』『胃がんにはB薬』などと臓器ごとに分類して薬を選んできたけれど、遺伝子の変異が同じなら、臓器に関係なく薬が効くこともあるんだ」
-では、がんゲノム医療は、どうやって進めるの?
「患者からがん細胞を取って調べるんだ。すでに原因となる遺伝子の変異は数多く見つかっているので、がん細胞に含まれるそれらの遺伝子に変異があるかを一度に解析し、患者にとって最適な薬の選択につなげる。これを『がん遺伝子パネル検査』っていうんだ」
-神戸の企業が関わっているって?
「この検査システムを開発したのが医療用検査機器メーカーのシスメックス(神戸市中央区)なんだ。医薬品メーカーの中外製薬(東京)も販売している。シスメックスは114種類の遺伝子の変異を解析することができ、中外製薬は324種類を網羅している」
-保険適用の利点は?
「1回の検査に56万円かかり、患者の負担は3割以下で済む。通常のがん治療で治らなかった患者には治療の選択肢が広がって朗報だね。でも、それだけが目的じゃないんだ」
-というと?
「実は、日本人の遺伝子に関するデータを集めることが狙いなんだ。医療保険を使った検査では、遺伝子データを国立がん研究センター(東京)に集めることにしている。膨大なデータベースを構築し、新たな治療薬の開発などに役立てるためだ」
-スケールの大きい取り組みだね。
「米国や欧州、中国などがデータ集めに力を入れてきたけれど、これまで日本には日本人のデータを蓄積する仕組みがなかった。今回の取り組みは国家プロジェクトなんだ」
-ところで、神戸の医療用検査機器メーカーがなぜ、がんゲノム医療に関わっているの?
「シスメックスは、遺伝子検査の需要が高まると見込んで、2000年に研究所を神戸市西区に開いた。健康状態を診断する主力の『血球検査機器』にとどまらず、治療方針の決定に結びつく検査にも事業を広げるのが狙いだ。乳がん手術中に転移の状況を調べるシステムなどもつくっているよ」
-今後の展開は。
「今は川崎市の拠点で検査を一手に担っているけれども、リスク分散などから神戸・ポートアイランドにも拠点を設けることを検討しているよ。がん以外の病気でも遺伝子の変異が原因となっている可能性があり、遺伝子検査へさらに力を入れるそうだ」