有馬に温泉なしの素泊まり宿 老舗旅館が始めた理由とは
2019/10/03 05:30
火災を乗り越え再建された共同店舗。2階部分に宿が入る=神戸市北区有馬町、小宿八多屋
老舗旅館の中からも、新たな試みをする動きが出てきている。温泉街の中心地にあり、100年以上の歴史を誇る旅館「上大坊」(神戸市北区有馬町)は昨春、素泊まりの簡易宿「小宿八多屋」を旅館の真向かいにオープンした。宿の中に温泉はなく、食事が提供されるわけでもない。上大坊の堂加雅丈さん(61)は「有馬温泉というと、これまで少し敷居が高かったかもしれないが、若い世代や外国人など多くの観光客に利用してもらいたい」と話す。(安福直剛)
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きっかけは災難からだった。2016年11月、有馬温泉の中心街で民家火災が発生し、隣接する有馬人形筆やカフェなどの店にも延焼した。材料などを失った店主らは一時は再建を諦めかけていたが、場所は有馬の中心地。「有馬の顔」を空き地にしてはならない-との声が上がった。
商店主らでつくる「有馬商店会」が国の事業を活用し、2階建ての共同店舗を建設する方針を決定。江戸時代の温泉街の最盛期を表す言葉になぞらえた「有馬千軒再生事業(プロジェクト)」として始動した。堂加さんも「有馬の活性化のためにできることがあれば」と2階で宿を営業することを決意した。
8部屋あり、うち7部屋は定員3人で、1部屋にはシングルのベッドを設置した。いずれも落ち着いた和室で、エアコンや冷蔵庫などの設備のほか、シャワールームやトイレもある。向かいの上大坊の温泉には無料で入ることができ、チェックイン・アウトもここで済ませる。平日は2人で1万5千円と、有馬中心部としてはお手頃価格だ。
14年に発足した同商店会は、空き店舗の有効活用など有馬全体の集客増に向けて活動している。堂加さんも「有馬ブランド」は保ちつつ、さまざまな観光客をターゲットにしていく必要性を説く。実際、八多屋の利用者の多くは東洋系の外国人や若いカップル、友人同士が多いという。
「(八多屋が)新たな有馬の形として定着すればうれしい。有馬が一体となって旅館や店になり、まちのにぎわいにつながれば」と堂加さん。同商店会は空き家の再建だけでなく、夜間営業する飲食店などの増加に向けても動く方針という。有馬が変わりつつある。
小宿八多屋(上大坊)TEL078・904・0531