【39】自分の過去と向き合う時期 「いつか自分を大切に」
2018/10/10 10:00
憧れは韓流アイドル
8月28日、プロ野球阪神対ヤクルトのナイター戦。招待を受けた尼学の子たちが、西宮市の阪神甲子園球場にいた。虎のかぶり物を着け、グラウンドの選手に声援を送る。でも、何カ月も前から楽しみにしていた真央の姿がなかった。
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中学3年の真央が阪神を好きになったのは3年前。当時球団に所属していたマット・マートン選手に招待された。甲子園の控室で握手をしてもらった。「かっこいいし、優しい」。サインをもらったTシャツは今もお気に入りだ。この日もスタンドで応援する予定だったが、提出間近の宿題が終わらず、断念した。
絵画は何度も表彰されるほどの腕前で、運動神経も抜群。ただ、得意なことでもいま一つ積極的になれない。苦手なことはなおさら。高校受験が近づいても机に向かう時間は増えなかった。
真央は乳児院から尼学に来た。小学生の頃、母に会いたい気持ちが募り、手紙を書いた。「生んでくれてありがとう」。やり取りは3、4回で途切れた。「せめて写真がほしい」と願ったがかなわなかった。「もう、いいや」。真央は自分の気持ちにふたをした。
見守ってきた副園長の鈴木まやが言う。過去の物語の積み上げがあってこそ、人は将来を見ることができる。進路選択を迫られる中3は、自分の過去と向き合う時期でもある。「だから今は、すごくしんどいのだと思います」
でも、尼学のみんなが知っている。困っている人がいれば真っ先に手を差し伸べる優しさを。まじめにやり抜く粘り強さを。だから真央の周りには人が集まる。鈴木は願う。「良いところもたくさん積み上げてきた。そこに気付き、いつか自分のことを大切にしてほしい」
(敬称略、子どもは仮名)