【44】「不登校の時は一人って感じ」 人を笑顔にできる場所が見つかった

2019/05/08 05:30

ゲームがしたい。だけど…

 はにかんだ太一が、落ち着きなく児童養護施設「尼崎市尼崎学園(尼学)」(神戸市北区)の廊下をうろうろしていた。「緊張するわー」と何度もつぶやく。制服を着て、胸に薄紫のコサージュを付けていた。 関連ニュース <視点>三田市長選 不信感募る市民の受け皿に 「市民病院の神戸移転は白紙」三田市長選初当選の田村氏、再編統合への反発を追い風に 病院再編の逆風、想像超える 三田市長選落選の現職森氏、必要性訴えるも「理解されなかった」

 3月16日。毎年恒例の中学生の卒業を祝う会が開かれた。地域の人も招き、約70人がホールを埋めた。今年の卒業生は4人。それぞれの担当職員がどんな子か紹介した後、決意を書いた作文を発表する。トップバッターが太一だった。
 「4人で相談して、自分で1番を希望しておきながら、朝から何回もトイレに行ってました」。担当の大庭英樹が紹介すると、会場から笑いが起きた。
 太一は幼児で尼学に来た。くりっとした目が愛らしく、活発な子だった。しばらくして家庭に引き取られたが、小学校に行かなくなってしまった。家にこもり、ゲームばかりの日々。中学1年のとき、児童相談所は尼学に戻す判断をした。
 大庭は当初、学園の生活になじめるか心配した。だが、杞憂だった。
 まじめで繊細な性格。朝は誰に言われなくても5時過ぎに起きた。学校の準備を完璧にして、必ずトイレに3回行った。抜群の社交性で、職員以外の大人にも積極的に話しかけた。大庭は「不登校になったのが不思議なくらい」と話す。
 太一が振り返る。「転校してきたのに、遅刻ばっかりしてたらあかんなって。最初はいろいろと考え過ぎてた」。朝になると勝手に目が覚めた。休まず学校に通い、多くの友達ができた。休憩時間のおしゃべりが何よりも楽しかった。「学校に行ってなかったときは、ずっと一人って感じ。しんどかったもんな」
 ユニットでは、小学生から高校生までがにぎやかに暮らす。それが心地いい。
 尼学を「施設」と思っていないという。人を笑顔にできる場所。そう表現した。
(敬称略、子どもは仮名)
 記事は岡西篤志、土井秀人、小谷千穂、写真は風斗雅博が担当します。

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