【46】少年の頑張り「百点あげたいくらい」 だけど厳しく…小言も

2019/05/10 05:30

吹き抜けの階段

 高校受験が近づくと、中学3年の太一は、職員の大庭英樹と衝突することが増えた。公立高校に目標を定めたが、太一には無理やり勉強させられているという思いが消えなかった。ことあるごとにぶつかり、2~3日、口をきかないこともあった。 関連ニュース 18歳で父親に 「貧乏でも家族3人で幸せ」 「やっぱり、命かな」 中学生が思う大事なもの いじめで「人生どうにでもなれって」 18歳女子高生の夢と葛藤

 児童養護施設「尼崎市尼崎学園(尼学)」(神戸市北区)。太一は幼児の時に来た。しばらくして家庭に引き取られたが、小学校に行かなくなった。家にこもり、ゲームばかりの日々。児童相談所の判断もあり、中学1年で再び尼学に戻った。
 勉強はゼロからのスタートだった。尼学に来た当初、足し算の筆算すらできなかった。小学校の基礎から学ぶため、週2回休まず塾に通い、3年の夏からは大学生のボランティアに教えてもらった。
 受験を控えた太一に、大庭は小言を言い続けた。「受験生がこんな時間にゲームしてていいのかな」「受験生の割には、のんきだね」「ゲームは何も君を助けてくれないよ」
 大庭が明かす。「彼の育った環境を考えれば、百点をあげたいくらい頑張っていた」
 太一にのしかかるのは、勉強だけではない。進路選択は、将来を考えること。そのためには、過去を振り返り、自分の置かれた現実と向き合わなければならない。相当なストレスだったはずだ。
 それでも大庭が厳しく当たったのは、受験が大変だったという当たり前の経験を積んでほしかったからだ。頑張った経験はいつか、次の壁を乗り越える力になる。
 そして、学生ボランティアら多くの人に支えられていることを感じてもらいたかった。人があなたのことを思い、手をさしのべてくれる。その思いに応える。そんな経験をさせたかった。
 当初、太一にとって勉強は「死んでも嫌なもの」だった。公立をあきらめ、簡単な私立でいいと何度も思った。そのたびに学生ボランティアに励まされ、大庭から叱咤された。
 少しずつ、学ぶ喜びを知った。数学の問題が解けたり、宿題を完璧にできたり。達成感があった。
(敬称略、子どもは仮名)
 記事は岡西篤志、土井秀人、小谷千穂、写真は風斗雅博が担当します。

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