【47】卒業、新たな生活へ 「支えてくれたこと、一生忘れない」
2019/05/11 05:30
決意を発表。一歩ずつ大人へ
3月16日。児童養護施設「尼崎市尼崎学園(尼学)」(神戸市北区)で開かれた中学生の卒業を祝う会。職員の大庭英樹に促された中学3年の太一が、約70人の前に立った。緊張しながらも、優しさがにじむ声で、丁寧に作文を読み上げた。
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心が折れそうになったことも、何度もありました。そんな中、受験への勉強がスタートしました。
太一は幼児の時に尼学に来た。しばらくして家庭に引き取られたが、小学校に行かなくなってしまった。中学1年で再び尼学に戻ったが、直後のテストでは5教科合計が10点に満たなかった。足し算の筆算すらできず、小学生の基礎から学び直すため公文に通った。
そんな僕に、学習ボランティアの方々がたくさん来てくださり、今までできなかったことが少しずつ理解できるようになりました。
出会いに支えられた1年だった。関西学院大の学生ボランティアが、徹底的に勉強につきあってくれた。合格祈願のため、一緒に三田天満宮に行ってくれた。大庭の叱咤も受け、着実に学力を伸ばした。
そして、受験当日。
支えてくれたたくさんの人たちを浮かべ、受験に挑み、届かないとあきらめていた壁を見事突破することができました。
「みんなでやったから、合格できた」。素直な思いだ。
今では、勉強ができなくてよかったと思える。それは、学生ボランティアの人たちと出会えたから。
自分の強みも見つけた。継続する力だ。スタートが遅くても、努力すれば追いつける。これからもっと努力すれば、さらに先に行ける。
4月から始まる高校生活を全力で頑張りたいです。
太一は「選択肢がほしい」と言う。好きで施設に来たわけではない。小学校に行っておらず、選ぶ高校は限られていた。だからしっかりと学び、卒業する時の選択肢を広げたい、と。
決意は、こう締めくくった。
たくさんの方々に支えられたこの1年は一生忘れることはできません。本当にありがとうございました。
(敬称略、子どもは仮名)
■
児童養護施設で暮らす子どもたちを描いた「木もれ陽のなかで」は、今回が最終回です。
さまざま背景を持つ子どもたちと出会いました。親の虐待や病気、逮捕、経済的困窮…。子どもたちは何も悪くないのに、家族と暮らせなくなりました。
尼学では「当たり前」を取り戻そうと、懸命に暮らしていました。泣いて、笑って、怒って。何気ない姿に、生きるということの尊さを教えられました。
悲しい事件は後を絶ちません。家族を支える制度は、まだまだ不十分です。子どもを巡る取材は、これからも続けます。
(記事は岡西篤志、土井秀人、小谷千穂、写真は風斗雅博が担当しました)