【6】古銭収集(2)立つはずだった和同開珎
2020/09/28 14:00
コイン店に持ち込み「絵銭」と判定された和同開珎(中央)。本物なら上の10円玉のように立つという。右下は前回紹介した「半両銭」。
前回に続いて、古銭の話をしたい。
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【5】古銭収集(1)安価ゆえ、深みにはまる
ある日、各地のコイン店が集結して展示・販売する「コインショー」なる存在を知る。ぜひとものぞいてみたいと思って昨年、大阪で開催されたコインショーに初めて足を運んだ。
会場には輸入銭はもちろん、大判・小判、外国コインなどがずらりと並び、ある業者などは、中国の古銭だけで数十冊のアルバムを持っていた。同じ名称でも、大きさや書体などによって価格が異なる。近年、人気が高まっているという中国の明(みん)や清(しん)の時代のものには、手元のカタログの何倍もの値が付いていた。
コインショーの光景を目にして以来、いつものごとくコレクションを増やしたくなり、あれこれ買い求めるようになる。
そして、ついに、あの「和同開珎(わどうかいちん)」に出合った。ある骨董(こっとう)祭で見つけたのだ。日本史の教科書に載っていた超有名な貨幣である。かなりの出費だったが、迷わず買った。よし!
ところが、である。持ち帰って眺めるうち、果たして本物かどうか、気になり始めた。まさか…。いやいや、そんなはずはない…。
あれこれ考えた末、神戸のJR六甲道駅近くのコイン店に持ち込むことにした。「この和同開珎、本物でしょうか」
そう尋ねると、店主の福家正憲さん(70)はすぐに重さを量った。「5・28グラム、これは重すぎますね。本物なら通常2グラムか、3グラムです」。それから拡大鏡でじっくり見て、こう言ったのだった。
「千年以上も前のお金なら、こんな色はしていません。地金の質感から言って、明治以降に作った絵銭でしょうな」
「明治以降? なぜだ!」。シャウトしたい心境だった。
絵銭とは、玩具(がんぐ)や記念品などとして製造された貨幣の類似品をいう。目の前で、店主が指の間に貨幣を挟む動作を繰り返す。
「本物なら、仕上げがしっかりしています。10円玉のように机の上に立つはずです」。だが、何度やってもパタリ、パタリと倒れるばかり。私の「和同開珎」は完全な偽物だった。
福家さんは私を慰めてくれようとしたのか、「雰囲気は十分に出ています。明治以降に作られた絵銭として、5千円程度の価値はあります」と言った。
私がこれをいくらで買ったかは言わなかった。ここでも書けない。「5千円程度」と聞いて、ぼうぜんと立ち尽くす姿から想像していただきたい。
(骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)