【18】浜口陽三の版画 その二 ナンバーの謎は残ったが
2020/12/28 13:37
筆者が持参した作品を鑑定する三木哲夫さん=丹波篠山市、兵庫陶芸美術館
版画家、浜口陽三の作品をめぐる話を続ける。
私の手元の3枚の版画について、兵庫陶芸美術館館長で、浜口の研究で知られる三木哲夫さん(73)にメールで問い合わせると、「浜口陽三作品集の第2刷の一部ではないか」との見立てだった。作品集(全12枚)は1962年、美術出版社から出ており、第2刷は70年に刊行されている。
つまり、オリジナルでも別バージョンでもなく、単なる写真製版の印刷物ということだ。
私の長年の“骨董(こっとう)運”からして、そんなところと納得した。が、発行枚数を示す「125」の数字の謎は残ったままだ。そもそも、50枚しか刷られていないはずである。
結局、陶芸美術館の三木さんを訪ねることにした。
三木さんは3枚の作品を手に取ると、すぐさま両手で持ち上げかざした。「間違いなく美術出版社が作ったもの。紙を透かしてみると、円の中に美の文字が見える部分があります。出版社名の頭の文字です」。透かしが入った紙を使っているとは夢にも思わなかった。
それから、欄外にあるサイン「hamaguchi」と「106/125」の数字をいぶかしげに見た。「私もこの作品集を所有していますが、サインもナンバーもないのが普通です。なぜこんなサインが…」
浜口陽三研究の第一人者の手にかかっても、なぜこんな形で作品が残っているのか分からなかった。
三木さんの話では、作品集の寸法に従って版画を写真製版して収めたので、オリジナル作品と寸法などが異なるのは当然のことらしい。
また、「浜口の本物の版画をじっくり見れば、表面にインクの凹凸があるはずです。単なる黒色ではなく、光を含んだビロードのような黒。どれも繊細で精緻、緊張感が漂ってきます」とも。
私が買った版画は額縁のガラスに接している。本物ならば版画部分の周縁に厚紙のマットが挟んであり、版画とガラスに隙間がなくてはならないのだ。版画に詳しい人なら、骨董市で見た段階でオリジナルではないと見抜けたはずだ。とはいえ、浜口の版画を買ったことでいろいろなことを学ぶことができた。
三木さんは、かつて勤務先の自室の壁に、美術出版社の作品集から選んだ一枚を額に入れて飾っていたとか。「たいていの人は、本物と思ったようですね」。私が本物と思ったのも、無理はない?
「魚とレモン」の創作意図については、文献を調べても、三木さんに尋ねても、“目からうろこ”の答えは得られなかった。
魚はたぶん「サンマ」だろう-。そこまでである。
(骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)