【38】鎹(かすがい) その一 「馬蝗絆(ばこうはん)」の修理法に迫る
2021/05/31 14:14
鎹直しのある高麗茶碗
奇妙な茶碗(ちゃわん)-。それが第一印象だった。
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姫路城近くの古美術店でのこと。ショーウインドーの茶碗の表面に3カ所、留め具のような金属が光っている。気になって店主に聞いてみると「茶碗にひびが入ったので、水漏れしないよう鎹(かすがい)を打ったのよ。かなり昔の仕事だな」と返ってきた。
「かすがい?」
「『鎹直し』とか『鎹止め』とか言うんや。『子は鎹』の語源でもある」
鎹とは「コ」の字形で、尖(とが)った先端部が二つある金属製のくぎのことだ。店先の茶碗の鎹は、先端が器の厚みの中に収まっている。「鎹直しした有名な青磁の茶碗、馬蝗絆(ばこうはん)を知らんか? あの重要文化財と同じ直し方や」
馬蝗絆-名前だけは知っていた。室町時代に将軍足利義政が珍重した茶碗である。底にひびが入ったため、代わりのものがほしいと中国の明(みん)に送ったところ、このような名碗はもう存在しないとして、鎹で修理して送り返された。蝗(いなご)が馬に止まったようだ、と馬蝗絆の銘が付いたとされる。そんな話を持ち出されては無性にほしくなる。給料1カ月分を支払った。
後で、購入した茶碗を調べると、400年ほど前に朝鮮半島で焼かれた高麗(こうらい)茶碗の一つと分かった。
さて、7年前のことだ。別の抹茶茶碗が「ピリッ」という音と共に真っ二つに割れてしまった。私はふと、鎹直しの技法を思い出し、挑戦してみる気になった。
まず、割れた茶碗に穴を開けなければと思い、ホームセンターに行って工具のきりを買おうとした。売り場で係員にたずねると、「陶磁器に人力で穴を開けることは無理でしょう」との答え。「電動のルーターを使えば、可能かもしれません」
ルーターとは、歯科医が歯を削ったり穴を開けたりするときに使うあれだ。「なるほど」と思ったが、あまりに高価だ。先に、くぎ売り場で鎹を探すことにする。が、そんなものはどこにもなかった。
自宅に帰り、ネットで検索してみる。鎹直しは中国の明時代には確立されていたとされる修理法で、日本にも職人が存在したという。また、陶磁器の破片をつなぎ合わせて修復する「呼び継ぎ」なる技法があることも知った。
近年、日本では陶磁器などを金粉と漆で修復する金継ぎ技法に関心を示す人が増え、講座が盛んに開かれている。
ならば、鎹直しの技法を伝授してくれる講座や、修理してくれる工房があるかもしれないと思った。
(骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)
※電子版の神戸新聞NEXT(ネクスト)の連載「骨董遊遊」(2015~16年)に加筆しました。