【39】鎹(かすがい) その二 愛着の器を直して使う文化
2021/06/07 14:32
茶道具修理のプロ、岩間貴昭さんと赤楽、黒楽茶碗を呼び継ぎし、鎹直しを施した茶碗=大阪府池田市
鎹(かすがい)直しの話を続ける。真っ二つに割れてしまった愛用の抹茶茶碗(ちゃわん)を鎹直しで修復できないか-。7年前、私は複数の工房に問い合わせた。しかし、返事はどこも「ノー」。
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「(歯科医が使うような)高速ルーターで穴を開けようとしても、おそらく別の場所にひびが入ってしまう。そんな危うい仕事、引き受ける人はいませんよ」
鎹直しの技法は途絶えてしまったのだろうか。ならば、余計に知りたい。どのようにして穴を開け、鎹を打ちつけたのか。あれこれ文献を探したが結局、徒労に終わった。
2年前のことだ。長年使っていた茶碗の口が欠けてしまい、ネットで修理先を探していると、見覚えのある名前があった。岩間貴昭さん(69)=大阪府池田市=という。
ずいぶん前にある会合で知り合ったものの、音信不通になっていた。そういえば、岩間さんは金継ぎ教室の講師で、茶道具全般の修繕に携わっていた。早速、自宅兼工房にうかがうことにした。
そこで、なんと鎹直しの茶碗を見つけたのだ。岩間さんに聞くと、「私が直した」という。「えっ!」。これぞ、灯台下暗し。
この記事を書くため、あらためて再訪し、長年知りたかった穴開け方法について尋ねた。「ルーターです。中国の映画に鎹直しのシーンが出てきますが、あんな高度な技はありません」
映画とは、チャン・ツィイー主演の「初恋のきた道」(1999年公開)。職人が割れた鉢に鎹直しを施すため、バイオリンの弦のようなものを使い、古代人が火をおこすようにして穴を開けていた。
岩間さんが直した茶碗をよく見ると、半分に割れた別々の赤楽茶碗と黒楽茶碗を金直しで「呼び継ぎ」し、継ぎ目に鎹が打ちつけてあった。「楽茶碗」は柔らかい陶器で、穴開けも容易だったとか。
鎹は鉄ではなく、加工しやすく見栄えがいい銀を使ったという。そして、開けた穴に「打ちつける」のではなく、穴と鎹の角度を調整し「はめ込む」のだそうだ。
岩間さんが「鎹直しの手本」として所有する皿を見せてもらう。「この皿のように複数の鉄の鎹をはめ込み、完全に水漏れを防ぐ技術を100とするなら、私の技術は6割程度」と謙遜された。
鎹直しは「直し料」が器を買い替えるより安価だった時代の名残の「技」だろう。だが、100円ショップで食器がそろう今の時代に、愛着ある器にしゃれた直しを施して使い続けるのも文化、だと思う。
(骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)
※電子版の神戸新聞NEXT(ネクスト)の連載「骨董遊遊」(2015~16年)に加筆しました。