【48】中国の鏡 その一 体調不良、呪いのせいか

2021/08/16 15:00

筆者が京都の骨董市で買った3枚の鏡。右上の1枚が「細川ミラー」と呼ばれる中国・戦国時代の国宝に似ている

 14年前、京都・東寺の「ガラクタ市」でのことだ。

 境内の人混みの隙間から、光り輝く金色の皿のようなものがのぞいた。近寄ってよく見ると、直径30センチほどで中央部にひもを通す穴がある。昔の鏡ではないかと思われた。金色の地に緑の石をちりばめたような意匠、外縁には青と赤の宝石?がはめ込まれている。
 店主に聞くと「中国・戦国時代の鏡」だという。「重いよ」と言いながら皿立てから外し、こちらに差し出した。「鏡背(きょうはい)の細工がすごい。王侯貴族の愛用品。青と赤の石はメノウやな」。このとき初めて、ひもがある裏面を「鏡背」と呼ぶことを知った。
 中国の戦国時代(紀元前5世紀~同221年)と言われてもピンとこなかったが、鏡背の華やかな細工にいにしえの美のようなものを感じ、心を揺さぶられた。値段を聞くと、20万円という。黙っていると、すぐに4割引きとなって商談が成立した。
 自宅に持ち帰り、ネットで検索して驚いた。購入したばかりの「鏡」が、やはり中国・戦国時代につくられ、今は日本の国宝となっている鏡に似ていたからだ。通称「細川ミラー」と呼ばれる「金銀錯狩猟文鏡(きんぎんさくしゅりょうもんきょう)」である。熊本藩主だった細川家のコレクションを集めた美術館「永青文庫」が所蔵している。
 手元の「鏡」とネット上の「細川ミラー」をじっくり比較すると、鏡背の渦巻きの文様や馬上で動物と戦う人の姿などがそっくりだ。直径は、私の「鏡」は29・5センチで、「細川ミラー」より12センチも大きい。私は大いに満足した。
 さらに、運気が最高潮を迎えたと思えるような出来事が続く。翌月、今度は京都・北野天満宮の「天神市」で、またもや中国・戦国時代と推定できる鏡に巡り合ったのだ。東寺とは別の店主である。
 鏡は2枚あり、1枚は最初買った鏡と全く同じ大きさで、もう1枚は縦19・5センチ、横39・5センチの長方形で、5本のひもが添えられていた。
 店主に値を聞き、あまりに高額で迷っていると、「国宝だぞ。買え、買え」と耳鳴りのような声が聞こえてきた。不思議なことに、ここでも4割引きとなり、結局買い取ることにした。
 ところが、である。鏡を携えて、京都から帰宅するや、風邪でダウン。ほぼ回復したころ、今度はぎっくり腰になった。間もなく、持病の痔(じ)が悪化。さらに不整脈を発症し、こちらは手術が必要なほどだった。
 これまで骨董(こっとう)を買ってきて、神秘的な体験はあったものの、身の上に異変が起こったことなどなかった。これだけ病が続くと、「もしや鏡のせいでは」と考えずにはいられなくなった。
 (骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)

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