【65】骨董市の魅力 その一 偽物をつかまされたけれど
2021/12/20 15:00
「骨董市」入門で筆者が今、一押しの「平安蚤の市」。2019年春にスタートし、売り手も客も若い人が目立つ=21年11月、京都市左京区の岡崎公園
これまで、偽物をつかまされた話を何度も書いた。すると、複数の読者から「骨董(こっとう)は信頼できる店で買うべき」という趣旨の感想をいただいた。多くの入門書にも「骨董は信頼できる店で買うべし。結局、安く付く」といった記述が出てくる。私もそう思う。
だが、信頼できる店とはどういう店だろう。これまで、老舗と呼ばれる店、選び抜いたと思われる品を美術館のように展示する店、古美術雑誌に頻繁に広告を出す店、などをいくつも回った。どこも私の思惑よりはるかに高い値が付き、会社員の身では手が出ない品ばかり並んでいた。
時に不愉快な思いをしなければならなかった。「ごめんください。(商品を)見せてください」と言って入っても、店主が無言のまま冷ややかな視線を返すだけで、相手にされなかったことも一度や二度ではない。店主が、常連さんとおぼしき客と話し込んでいるところへ入店しようものなら、たいてい無視された。
つまり、初めての客や初心者にとってハードルが高く、「信頼すべきでない店」と言わざるを得ないのだ。
かつて東北の旅先で骨董店に立ち寄り、追い出されたことがある。当時、私は明治期の「印判(いんばん)(版)手」を探していた。印判手とは、印刷した紙(銅版転写紙など)を器に貼り付け、焼成した日常使用の食器類などだ。比較的安価であることから、骨董初心者の多くが「いんばん」集めを経験する。店で印判の話をしたとたん、急に不機嫌になった店主に「うちは、そんな下手(げて)を扱う古美術店ではない。帰ってくれ」と言われて、追い払われた。
こんな体験を繰り返すうちに「信頼できる店」を探す意欲が失せ、自然と骨董市や骨董祭(ホールなどでの室内催事)に足を運ぶようになった。関西の骨董市でよく出掛けるのが、京都・東寺の「ガタクタ市」(第1日曜日)と、赤穂・大石神社の赤穂骨董市(毎月15日)だ。相性がいいのか、たいてい何か収穫がある。
そして今、注目しているのが京都の「平安蚤(のみ)の市」。おおむね毎月10日に開催され、平日でもあふれんばかりの人、商品のディスプレーもおしゃれだ。
三つの骨董市では店舗を持っている業者もいれば、露天専門の出店者もいる。骨董市には同業者の信頼がなければ参加できないし、素人の客をだますような商売をすれば追放される。
これまで私が買った数々の偽物も、店主が偽物と知った上で売ったとは思っていない。特に初めて扱う珍品、例えば甲骨文字入りの骨だの木簡だのについては、「分からない」のが普通だ。「恨みっこなし」で買ったのだから、金を返せと言うつもりもない。
(骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)
※電子版の神戸新聞NEXT(ネクスト)の連載「骨董遊遊」(2015~16年)に加筆しました。