【66】骨董市の魅力その二 闘争の象徴、価値は3千円
2021/12/27 13:29
大石神社で毎月開かれる赤穂骨董市=赤穂市上仮谷
骨董(こっとう)市で一番の楽しみは、各店主が独自のルートで仕入れた「初荷」と出合うことかもしれない。基本は早い者勝ちだ。が、昼近くに訪れ、新緑の季節を満喫したり秋の落ち葉を踏みしめたりしながら、ゆっくり巡るのも楽しい。
二十数年にわたって、各地の骨董店や骨董市を巡ってきた。私が最も驚いた品の話をして、連載を終わりたい。
8年前の秋、山口県で催された骨董市に出掛けた時のことだ。出店者が並べた段ボール箱の中から古本の活字がのぞいた。それは学生運動家だった奥浩平の遺稿集「青春の墓標」や、フランスの作家ポール・ニザンの「アデンアラビア」など、高校時代に手にした本だった。懐かしくなって箱を探ると、新聞紙に包まれた見覚えのあるヘルメットが出てきた。
高校時代、学生運動の活動家だった友人がやって来ては、私を仲間に誘った。その時に「一緒にデモに参加しよう。ヘルメットも用意した」と見せてくれたものと、同じセクトのヘルメットだった。デモ参加の話は元婦人警察官の母の知るところとなり、その涙によって阻止された。
感慨深そうにヘルメットを触っている私を見て、店主が言った。「3千円です」。時の流れは「闘争の象徴」とも言うべき存在を3千円の骨董品に変えていた。「歴史的な資料です。出征兵士が持っていた寄せ書きの日の丸と同じこと。あれは相場が8千円くらい。このヘルメット、将来もっと高くなりますよ」
帰途、なぜ私が骨董にのめり込むようになったのか、考えた。20歳の時、熱心に新左翼の団体で活動していた友人が、セクト間の内ゲバに絶望して自死した。「先鋭的に社会の変革を希求すればするほど、反革命として指弾される」と遺書を書いて。
以来、「政治的なことに一切関わりを持たないことが、最も革命的な生き方」という逆説的な思いが、私の中に刷り込まれた。どんな政治活動であろうと、しょせんは個人的な趣味の一つではないか。そしていつか、美しいものをめでるという骨董愛好が最優位の価値となっていた。
最近、大月書店の「レーニン全集」47冊を1万4800円で買った。古書とはいえ、定価の10分の1以下。安すぎる! だが、それが現代のレーニンへの評価だ。高校生の頃、予科練帰りの警察官の父親に「国賊の読む本」として焼き捨てられた因縁の本でもあった。政治への関心や情熱は消えうせたままだが、若き日、過激な論理に共鳴したのはなぜか。再度、骨董的革命思想を学ばねばという思いに駆られている。年金生活も間もなく始まる。今から楽しみである。
(骨董愛好家、神戸新聞厚生事業団専務理事 武田良彦)
※電子版の神戸新聞NEXT(ネクスト)の連載「骨董遊遊」(2015~16年)に加筆しました。
=おわり=