パリで製鉄技術修業 世界とつながる町工場 長田

2018/12/13 05:30

年季の入った機械が並ぶ町工場=神戸市長田区

 フランス・パリで修業-。そう聞くとパティシエかアーティストかと思うが、半世紀ほど前、製鉄技術を学びに渡仏した長田区の町工場の男性の話だ。 関連ニュース ドアやボタン触らず操作 神戸の町工場、いかり形グッズ製作 ロボット開発に婦人服 町工場の底力 長田  灘高架下、町工場から「アート村」に変貌 神戸

 「他にもすごい技術の人がたくさんいるから紙面にはちょっと…」と写真撮影はNGとなった。しかし、自身の経験に裏打ちされた技術や欧州と日本の事情、長田の町工場の現状など、何度も「へぇ~」と関心するような逸話を語ってくれた。
 1950年代生まれ。製鉄関係の父の影響でこの道に進んだ。今は船舶や製鉄機器などのモーター部品の「溶射」を専門に受注。繰り返し使ったモーターのシャフトと、それを受けるベアリングのすり減った部分に、溶かした鉄を吹き付けて元通りに戻す。モーターが特注品のため、買い替えるよりも修理をしながら長年使用することが多いという。
 高専卒業後、パリへ。モンマルトルの丘近くのアラブ人街で暮らしながら研修施設に通った。「溶射はナチスドイツが材料がないことから編み出し、欧州に広まった技術」なのだという。
 帰国して長田に製作所を立ち上げた。求められる水準に近づくうちに、仕事は増え、国内だけでなく中国やドバイ、オランダなどからも部品が運ばれてくるようになった。関西国際空港の就航数が増えたことも大きい。ドバイから商社を通して送られてきた部品を修理して5日後には仕上げて返す。
 近年の造船業の落ち込みで、長田の町工場全体の仕事は大きく減った。「珍しい技術を身に付けたから生き残ってこれた」。年季の入った機械の上で、溶射を終えた部品がキラリと光る。下町の小さな工場が世界とつながっている、そう感じた時間だった。(石川 翠)

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