新長田の鉄人28号 費用、耐震性…難題乗り越え人気者
2018/12/20 05:30
900キロもある頭部と胴体を接続させる作業=北海鉄工所
神戸出身の漫画家横山光輝の生涯を描いた本紙連載がきっかけとなり、動き始めた「鉄人28号」プロジェクト。市都市計画局再開発課長の中川欣哉(63)=現・神戸みのりの公社理事長=と音楽プロデューサー岡田誠司(59)=現・NPO法人「神戸鉄人プロジェクト」事務局長=は2006年1月、横山の作品を管理する光プロダクション(東京)にいた。
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「神戸の復興のため、鉄人28号を使いたい」。担当者に使用許可を願い出ると「復興の役に立てるなら」と、話に乗ってきてくれた。地元や関係者から「横山は須磨出身では?」との指摘も出たが、「新長田と近所やし、よく遊びに来ていた」と納得してもらった。
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建設場所はJR新長田駅前の若松公園、設計はコンペで大阪市の模型・造形作家速水仁司に決まった。ここまでは順調に進んだ。
立ちはだかったのは総工費1億3500万円の工面だった。市は07年度の当初予算案に4500万円を計上。残りの9千万円は、国の市街地活性化事業での補助金を見込んでいた。しかし、国は態度を一変。1年近い説明も実らず、鉄人への不交付を決定した。「はしごを外された」と岡田。一度、事業は宙に浮いた。
悩んだ末、取り入れたのが、自販機を市有地など約50カ所に置き、協賛金を獲得する方法だった。複数の飲料メーカーと話がつき、企業の協賛や個人寄付も集まった。何とか予定額を確保。この時点で当初の計画から1年近く遅れていた。
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制作を担ったのは大阪府岸和田市の町工場「北海制作所」(現・北海鉄工所)。最大のミッションは、身長18メートル、重さ50トンに上る巨体の耐震性だった。
「絶対に災害で倒れないように」。岡田らの注文と複雑なポーズの模型に、同社の野島秀郎(54)は渋い顔を見せた。鉄板をできるだけ薄くし、両足の真下に円柱形の基礎を打ち込んでバランスを取った。
約700枚の鉄板を骨組みに張り合わせてパーツを完成させ、新長田に運んだ。両脚、胴体、両腕、背中のロケットの順に組み立てが進み、最後に頭部を取り付け、09年10月完成した。
大阪市立大経済効果研究会は、実物大モニュメントの経済効果を半年間で142億円と試算した。
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「無駄遣いでは」「一時的な流行に終わる」。当初は批判も多かった。まちの活気は震災前に戻ったとは言えないが、完成から9年がたち、ビアガーデン、三国志祭、琉球祭…など、若松公園の鉄人広場では年間約20件ものイベントが開かれるまでになった。インスタ映えも後押しし、外国人観光客も引き寄せる。
「震災復興と鉄人が見事に重なった。何より、故郷の一風景を作ることができたこと。それが誇り」と岡田。来秋は10周年。早速、次のアイデアを練り始めている。=敬称略=
(井上 駿)