(9)早い段階で適切に対応するには?
2018/07/18 11:45
▽ぐらいなー・ちえこ 1966年、岩手県生まれ。2007年3月、大阪大大学院医学系研究科博士後期課程修了。専門は老年看護学。高齢者ケアに関する国際比較研究や仮想現実(VR)を用いた認知症看護研修の開発に取り組む。14年より現職。神戸市在住。
認知症について、神戸大教授らに聞くこのシリーズでは、認知症の特性や脳機能の変化、予防的取り組みの重要性などを紹介してきました。認知症は、軽度の早い段階で対策ができるかが重要だといいます。周囲の人が本人の変化に気付き、適切に対応するにはどうすればよいでしょうか。急性期病院における認知症高齢者へのケアを研究する神戸大大学院保健学研究科のグライナー智恵子教授(52)に、発症の兆候を見逃さない方法について聞きました。(聞き手・貝原加奈)
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-早い段階で本人の変化に気付くのが重要な理由は。
「現在の治療では、認知症を完治させることはできません。でも、軽度認知障害(MCI)など早い段階で生活習慣を見直したり、治療や予防を始めたりできれば症状を改善させ、発症を遅らせる可能性があるからです。他の病気が原因で認知障害が出ている場合もあります。頭部の外傷でできた血腫で脳が圧迫される硬膜下血腫や、髄液の循環障害による正常圧水頭症などは認知症の原因となる病気の例です。それらのもとを取り除けば正常に戻ることが期待できます」
-MCIとはどんな状態ですか。
「認知症と正常との中間段階です。これは、短期記憶など認知機能に問題があっても、日常生活には支障がない程度であることを指します。認知症の診断に至らなくてもこの状況を知り、適切な手を打てるかどうかが大切なポイントです」
-軽度の認知症やMCIで現れる症状は。
「短期の記憶力が弱り、物忘れが目立つようになります。記憶がないことへの不安から、忘れた部分を創作して補おうとするので、周囲の人は話のつじつまが合わないと感じることが増えるでしょう。時間や場所、人が分からなくなる『見当識障害』が出ることも。最も影響が出やすいのは時間の感覚でしょうか。例えば、娘の結婚式があったことは覚えていても、いつあったかは曖昧になってきます。複数のことに同時に注意を払う『注意分割力』も落ちやすく、手の込んだ料理など複雑な作業ができなくなります。レビー小体型認知症の場合は、早い段階で幻覚症状も現れます」
-見逃せないサインは。
「食事や排せつなど日常的な生活動作はできても、現金自動預払機(ATM)でお金を下ろしたり、電子レンジを使ったりするなど、複雑で高度な作業が少しずつできなくなっていきます。人との会話についていけず外出がおっくうになることも。個人差や認知症の種類による症状の違いはありますが、こうしたサインが一つでも当てはまる場合は注意が必要です」
-サインに気付いたら、どう対応すればいいですか。
「認知機能が低下しているなと感じたら、物忘れ外来などで医師の診断を受けましょう。別の病気の可能性がないかも確認した方がいいでしょう。本人のプライドを傷つけないように、『将来心配しなくてもいいように行ってみようか』というスタンスで誘ってみてください」
-認知機能の低下を緩やかにするためにできることは。
「家庭でできることは、基本的に生活習慣病の予防と重なると心得てください。食事は緑黄色野菜や不飽和脂肪酸を多く含む魚など地中海食が理想的です。週3日1回50分以上の有酸素運動も効果的とされています。また、高齢者は眠りが浅くなりがち。代表的なアルツハイマー型認知症の原因となる脳内のタンパク質『ベータアミロイド』をためないためにも、昼間はしっかり体を動かし、質のよい睡眠を取ることが大切です」