(3)軽度のアルツハイマー型認知症 徐々に「できない」が増えていく

2019/08/21 10:40

古和久朋教授(右)に妻のアルツハイマー型認知症について相談する男性=神戸市中央区楠町7

 約10年前に軽度のアルツハイマー型認知症と診断され、現在、神戸大医学部付属病院の認知症専門外来「メモリークリニック」で治療を受ける70代の女性。症状はゆっくりと進んでおり、現在は中等から重度の状態に。日常生活を支えている80代の夫と、同大学院保健学研究科の古和(こわ)久朋教授(49)を診察室に訪ね、進行を遅らせるための診療や患者への接し方などを聞きました。(井上 駿) 関連ニュース 北播磨総合医療センター、人事異動500人超 認知症診療センター創設、患者相談窓口を一元化 母猫は交通事故で、姉妹猫も亡くし…19歳の三毛猫が「分離不安症」と「認知症」 ひとりぼっちの不安に鳴き続ける日々、飼い主が取った行動は? 脳の活性化を図る「回想かるた」ゲームの全国コンテスト特別賞 認知症予防へ78歳田中さん考案

 女性は神戸市在住。2009年ごろに軽度の認知症と診断され、投薬治療を続けています。治療から約3年後に身の回りのことが自分でできなくなったといい、現在は週に6日ほど福祉サービスを利用しながら同病院で診療を続けています。
 -最初の症状は。
 夫「外出する時に戸締まりをしなくなり、注意しても聞いてくれませんでした。07年のことです。2年後、妻が大腸がんになった時に、戸締まりのことを医師に相談し、認知症の前段階である『軽度認知障害(MCI)』と診断を受けました。薬を処方してもらい症状が安定したので、数カ月後にかかりつけ医に移り、投薬治療を続けました」
 -かかりつけ医では、どんな治療を受けましたか。
 夫「最初は、症状の進行を遅らせる抗認知症薬『アリセプト』を服薬しました。思ったよりも薬が効いて、『いつもの妻に戻ってくれた』とほっとしました。しばらくは身の回りのことができていました」
 「しかし、だんだん症状が悪化し、できないことが増えました。料理ができなくなって、ご飯を炊こうとして炊飯器にパンを入れたり、トイレの場所も分からなくなったり。本人は自分でしようとするんですが、間違いを指摘しても聞いてくれなくて…。薬の量も上限に達したので、クリニックを訪ねることにしました」
 -その後は、どんな治療だったんですか。
 古和氏「アリセプトには性格が積極的になるなどの作用があり、本人の口数が増えて周囲と口論になることもあります。投与する薬に、気分が穏やかになる作用がある『メマリー』を加え、作用の異なる2種類を組み合わせることもしました。症状と薬の効き目を見極め、時には、薬を替えることもあります」
■全て1人で抱えこまないで
 -症状が進行する中で、家族の悩みは。
 夫「認知症が進んで、妻が妻でなくなってしまうことが受け入れられません。いつか、私のことも忘れてしまうのではないかと思うと、本当につらい。そんな妻の病状を医師にも正直に言えなかった。妻の悪口を言っているみたいな気がして。早い時期にもっと、ちゃんと伝えておけばよかったと、今は思います」
 「現役時代、妻は働いて私を支えてくれました。私より6歳年下で、『私が先に病気になるだろうなぁ』と思っていました。妻が先になるとは思ってもいなかった」
 -進行のスピードを緩めるため気を付けることは。
 古和氏「基本は、予防と同じ考え方です。生活習慣を整え、栄養と軽い運動をする。それと人とのコミュニケーションも大事。できないことが増えていっても、『掃除機をかける』『新聞紙をポストから取ってくる』など、何か家庭での役割を与えてください。本人の励みにもなります」
 -家庭での対応は。
 夫「要介護3の認定を受けており、施設で宿泊するショートステイと通所型のデイサービスを組み合わせて、週6日は福祉サービスを利用しています。妻を施設に預けることには抵抗がありましたが、自分1人では面倒をとても見られなくなってきて…」
 -家族が気を付けるべきことはありますか。
 古和氏「全て自分でしようと思ってはいけません。時には自分の時間をつくり、心身を休めてください。患者さんやその家族の方々が情報交換する認知症カフェなどの場もありますので、利用されてはいかがでしょうか。認知症の治療はマラソンと同じ。これからも長く続くのですから」
【軽度のアルツハイマー型認知症】認知機能が落ちて物忘れが続く「軽度認知障害(MCI)」から1段階進行した状態。身の回りのことが1人でできず、日常生活にも支障をきたすようになる。具体的には、食事や入浴、家事や買い物などをするのが難しくなる。一度認知症になると、投薬などで進行を遅らせることはできるが、完全に治すことはできない。

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