妻に内緒で世界の女性とメール 家庭に不満はない、けれど…はまった先のロマンス詐欺
2019/10/15 17:52
無料の国際マッチングアプリで世界各国の女性とメールのやり取りを楽しんでいる元公務員のカズオさん
結婚してウン十年、子どもたちは家から巣立ち、再び夫婦水入らずの暮らしが始まる-。しかし、それを新婚のように楽しめる人ばかりではない。連れ合いに先立たれ、あるいは離婚して新たな伴侶と第2の人生に踏み出す人がいれば、家族に内緒で出会いを探す人もいる。人生経験を積み重ねた男と女が、パートナーに求めるものとは? シニア世代の恋愛事情、聞いてみました。
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結婚し、子どもを授かり、孫にも恵まれた。生活に不満はない、けれど…。
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兵庫県内で暮らす60代の元公務員カズオさん=仮名=は、1年ほど前から無料の国際マッチングアプリで世界各国の女性とメールのやり取りを楽しんでいる。もちろん妻には秘密だ。
「たまたま手にした雑誌にそういう系の記事が載っていて、ちょっと興味を持ったんですよ。英語の勉強にもなるかなって」
自身のプロフィルに、日本人を示す神戸の画像や年齢などを記入。アプリが紹介する女性と連絡を取る。1、2回で途切れたケースも含めると10~20人の女性とメールを交わしたという。
当然、それなりのリスクはある。「ほとんどはサクラやフィッシング詐欺などの悪徳業者」。カズオさん自身、1回引っかかりかけたことがあるという。
その相手は米軍兵を装っていた。朝晩のあいさつから人生観まで、さまざまな話をした。そのうち、相手から「あなたに会いたい」「どこのホテルに泊まれば会えるのか」など熱のこもったメールが届くようになった。「彼女は本気だ」と感じたカズオさん。具体的に会う算段を考え始めた。
彼女は「私が日本へ行くためには、滞在先の身元保証人の情報を軍に伝えなければならない」と個人情報を求めてきた。誘導先のページは米軍の公式ホームページと寸分たがわず、カズオさんは特に疑うことなく必要事項を記入した。
すると、そのページから「隊員が無事に帰国したら返還するので、10万円ほど送金してもらいたい」と要求があった。さすがに怪しいと感じたカズオさん。「米軍 出会い系 詐欺」として検索したら「国際ロマンス詐欺」そのものズバリだった。
「いや、この時はヤバかった」とカズオさんは笑う。個人情報を流出させたのは悔いが残るが、今のところ悪用されている気配はないという。
中国・重慶あたりの女性からは、ビットコインの投資を持ちかけられたことも。「年齢は公開してあるから、『退職金が入ったんでしょ!』って迫られた」
日本人女性もいるが、カズオさんの見立てでは大抵「シニア層を狙い撃ちしたパパ活」だ。一度、女子大生と3カ月ほどやり取りして会ったことがある。お茶を飲んで楽しく話をし、そのまま別れようとしたら「お小遣いはどれだけもらえますか」と切り出された。そういうつもりはなかったので、丁重に断った。
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1年間続けていくうち、そういった怪しい女性は次第に見分けられるようになったというカズオさん。現在は香港の女の子とメールのやり取りが続いている。
「今、香港は学生デモが大変だから『デモには近寄るなよ』って送ったら、『心配してくれてありがとう』と返事がある。何というか、すがすがしい交流が続いていますね」
こうしたたわいないやり取りは、若い日本人女性が相手の場合は気恥ずかしさがあってエネルギーを使う。しかし母国語ではない英語のやり取りになると、そのあたりは吹っ切れるという。実際に英語力も随分上達した、と笑う。
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カズオさんには子も孫もいる。もろもろのリスクを承知でこうした出会いを求めるのは、なぜだろう。尋ねると「年齢を重ねて『お父さん』を卒業してしまうと、家庭では承認欲求が得られなくなるんですよ」との答えが返ってきた。
承認欲求とは、自分という存在を認めてほしいという誰もが持つ欲求のこと。心理学に詳しいカズオさんはさらに、米国の心理学者マズローが唱えた「欲求5段階説」の話を始めた。
マズローによると、人間の欲求はピラミッドのような形で5段階に分類される。最も基礎的なのは食欲や睡眠欲、性欲などの「生理的欲求」。次に住居や貯金などの「安全性欲求」。それから友情や人間関係などの「社会的欲求」へと続く。「ここまでは家庭でも満たされる」とカズオさんはいう。
その上に、さらに高次の欲求として、他人からの尊敬や評価といった「自我の欲求」▽潜在的能力を最大限発揮する「自己実現欲求」-がある。
カズオさんは、この2つは「家庭では満たされない」という。「妻は恋愛の対象というより、家庭を守る同志のような存在。定年退職してずっと家にいると、ささいなことでもケンカになるし…。『ありがとう』『愛している』みたいな感情は今更求めにくい。それが、疑似恋愛に走る理由じゃないかな」